※アニメ綾部と漫画綾部 そういえば、今までずっと久々知先輩を菊地先輩だと思っていた。ちょっと文字を入れ換えたら鬼畜だと覚えていたからだ。学年が違うからあんまり会わないし。綾部喜八郎はよく会っているけれど…と今日の出来事を頭の中で整理ついでに、誰も来ないような忍術学園のはじっこに穴を掘っていた。つうっと首を伝う汗を土まみれの制服で拭う。雨が降った後の土は崩れやすくて危ないけれど今更だ。あと埋まったとして綾部喜八郎にはわかるだろう。何となく、そんな気がする。 秋が近付いてきた外は、つい先日より全然涼しくてよかった。水分がからからになるくらい汗をかくわけでもないので、部屋に避難しなくてもいい。癖とも言える穴掘りを、真夏にやるのはあまり好ましくないのだ。(先生や先輩や下級生諸君に止められることも少なくはないし。) 不意にターコちゃんの中が暗くなったので顔を上げる。長いこと下げていたから首にずきりと痛みが走って、腰の骨がぺきりと鳴った。予想図の通りの彼が、縁に腰をかけている。ぱらぱらと振る土に目を細めた。 「今日久々知先輩に会ったんだってね」 ちょっと怒っているなあ。声色が少し冷えきっているのを静かに聞いたあと、思った以上に疲れていたらしい足が震えているのを見て座り込んだ。 「ああ。会ったよ。名前間違えて怒られた」「怒った」「というかお前は適当だなって言われた」カラカラと笑ったら、彼は何も言わずに縁からひょいと腰を浮かせて、狭い狭いターコちゃんの中に着地する。苛ついた様子もなく、じっと僕を見下ろす彼が何をしたいのかは、誰にも読めないことだった。僕にはなんとなあくわかるけども。 ずるずると隙間に三角座り(男でこの座り方は難しいらしい。が、体の柔らかい忍にとってはあまり関係のない話。)して、僕のテッコちゃんを撫でた。 「君がさあ、久々知先輩の話しないからわかんなかったのかもって言ったら、すっごい泣きそうな顔してたよ。」 「…おや、まあ」 「好きなんですか」 「好きですよ、たぶん」 「…よく言うよね」 ところで、久々知先輩の下の名前なんだっけ。…。…。へいすけ。ああ、知ってたの、安心した。こっちで呼ぶと先輩倒れちゃうから。まるでテレパシーでもしてるみたいに即答を即答で返答する、思考回路の働かない対話が少し楽しい。ふふ、と笑いを溢すと彼が眉を、僕にわかる程度にだけ寄せてむっとした。彼がのろけるなんて、予想も出来なかった過去がなんとも懐かしかった。 101010/きみの語りは不可解且つわかりづらいのだ |