何故なら僕が、保健委員だから。だから僕が助けなくてはならなかった。覚えたばかりの知識とやったことのない手当てを死に物狂いで駆使した。でも僕にだって限界はある。なくてはならない。所詮一凡人なのだから。

 どれくらいの間この部屋の沈黙を守っているのだろう。留三郎も僕も、ただお互いの温度を背中越しに分けているだけだった。僕の不幸が全部に溢れ出す感じ。巻き込まれた留三郎のどうしようもない感じ。悔しいような後悔。後悔のような寂しさ。ただ形容しきれぬこの。(鬱?憂鬱?)瞼の裏に浮かぶ鮮やかにも黒く暗い炎の色が、火花みたいにぱちぱちとくすぶっていた。留三郎はどうだかしらないけれども、ただ背中を合わせてくれていた。君も辛いだろうに。ごめんね。こんなことしてちゃ駄目だよね。わかってる。わかってるんだよ。でも。
 (まだまだ忍者に成りきれていない僕らの、心によく似た感情の真ん中は、大きく大きくえぐられている。)きっと留三郎もそうだ。
 ぐうっと胃にもたれそうな空気を、一度だけ大きく吸う。ひゅっと掠れた喉に通った空気にむせそうになったが、一度唾を飲み込んで耐えた。もう一回。今度はつっかえなかった。久しく使っていなかった声帯がぎしぎしと軋んでいる気はしたが。
 「コーちゃんさあ、すっごい健康的だったよね」予想してたよりずっと揺れて小さな声だった。自分でもびっくりするくらいの、泣きそうな声。それに何も言わず、留三郎は僕の投げ出された手を握った。

「ああ。筋肉とか骨とか尊敬するくらいには凄かった」

 その、優しさが痛いくらい沁みて、涙腺がわななく。耐えきれずにぽたりと一つだけ落ちたので、慌てて目を閉じてかかえた膝に伏せた。

「…骨とかね」

「…骨とかな」

「燃やしてあっても」

 綺麗に残ってた。声を揃えようと意識する必要などなく、ごく自然に同じことを同じような意味で言う。六年に満たないがそれと同じくらいの時間、一緒にいたのだ。考えてることなどわかる。わかってしまう。だから僕は留三郎に背中を預け、彼を取り返すことを決意した。今行くから少しだけ壺の中で待っていて。


 さあ出かけるぞ、とその前に。そっと引き出しから服を取り出した。忍者服の色ではない。先生方のような黒、上質な生地でできた黒装束。艶やかな暗闇に、言えなかったさようならを込めて、救えなかった君にごめんねと、今までありがとうを、組み立てる時に注ごうと思う。






100926/鎖骨と昏睡

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