※神様



 残暑の厳しい季節となりました。とはいえ私の身にそれが悪影響を与えることはありません。ただ暑くて出る筈のない汗が滴る感触を感じるくらい。全人類の気持ち(中でも私は日本人贔屓なので)を、汲み取っていたのでした。あまりにも不快になるとその、人間ごっこ、も終わらせてしまうのですが。
 その、ただもどかしく焦がす暑さも夕方になれば落ち着いて来ます。昼間はあんなにうるさかった蝉も、蟋蟀に変わり秋が近付いているのがわかるのです。ああ、季節が巡る、と。さみしいような気分になるのです。悪戯に地球を作ったから、その代償とも言える、温度差が。

 蝉の死体をぐしゃりと踏み潰せども踏み潰せども、一週間そこそこでゴミになったそれらは文句を言いません。言えません。短い間しか存在出来ないのに、僕に、罵詈雑言を浴びせれるだけの力量も度胸も知能もない。僕の目に映る生き物は、全部そういうもの。
 でもそれだと退屈でしょう?ここにいることがつまらなくなってしまうでしょう?ここまで耐えてきたけれど、限界でした。私はもう飽々して何回か火種を落として(増えて、考えるようになった人間を二つに分け、どちらが勝つか見つめていました。これが中々、少しは暇を潰してくれて、いやはや自分で作ったとは言えども、面白い。)いたのですけども、不意に、私が作ったものが、私にとって一秒にも満たない手付かずの残暑を、どんな風に過ごすのか気になったとでもいいましょうか。
 どろどろ残っていた暑さが知らず知らずの内に私の頭をおかしくさせていたのかもしれません。甘く壊れやすく、あるいは何にも動かされないくらい強く。

 二人の少年が目に留まって、今にも死にそうな一人とそれを支える一人が戦場の外れにいました。手当てをしても、どうにもならない。だってその子はもともと病気だから。ごわごわだったのであろうが血を染み込んで柔らかくなっている服の袖を破って、包帯の代わりにしていましたが、無駄だなあと不謹慎にも感じました。反省。
 お詫びに神様の僕が見ててあげましょう。偉そうに、そんな風なことを考えまして、しばらく留まっていた地面からするりと、風は涼しく日射しはきつい戦場に。足を踏み出します。長い間浴びたことのなかった太陽が皮膚とも言えぬ私の表面を焼き、こんな感じだった、と懐かしく思ったのです。


「なああんた、どこから来た」


 気付かれないとも思いませんでしたが、見つかるとも思っていませんでした。その少年はこちらを振り返らずに息絶えた少年から武器と文を奪い。忍者とはむごくやさしさのないものだと、耐え忍ぶ者だということを私に知らしめました。しかし気配に敏感すぎやしないのでしょうか。眠るとき面倒でしょうに。

「そのこ。きみの、ともだちなんじゃないの」

「…死んだやつは友達じゃない。ただの死骸だ。土に吸収されて無機物になる。」

 神様は優しくない。奪い取るものが目についた適当なものとか、気にしてすらない何かとか。それだけ言って少年はめっきり黙りこくってしまいました。シビアなことを。

「ごめんね」

「…」

「でもひとりたすけたらぜんぶたすけなきゃならなくなる」

 (そんな言い訳をしたのに、私は君に意地悪をするのだけれど。)
 何か変わった出来事に挨拶をしたかった、だから私はどうでもいい筈の蝉もとい人間に喋りかけたのです。その人間を、私と同じものにしたらどうなるのかと。まだ若かった私は、些細な疑問を解決するためにその少年と話しただけにすぎなかったのでした。






100922/さらばシャングリラ

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