ぷしっ、
 糸が切れたよりも清々する破裂音にもよく似た音が鼓膜を揺らした。じりじりとした赤が白い肌を滴り、伝い、ぽたりと床に落ちる。鈍い痛みは、落ちずに溜まる。赤いリボンがくるりと一周しているよう。ぐるぐると何回も巻かれ太くなるそれは、数ミリ単位であとが残る。薄く。細く。心の中には色濃く、そしてあざとく。
 くるくると包帯を用意する善法寺先輩は、この行為を止める、ということはしない。手当てはしてくれるし、俺のことが大嫌いなわけでもないんだと、思う。でも止めない。「勝手にしなよ、ただし死ぬのはアウトだけど。」と暗に言われているようだ。たっぷりの水を用意したことは、とりあえずない。用意してみようかと考えたことはあるけれど。

「止血した方がいい?」

「いえ、そこまでは…」

「なら、手え出して」

 ん、と手を差し伸べられたので右手を出そうとしてすぐ引っ込めた。(握手がしたかった、など。)左手をそっと掴んで切ったところより少し心臓寄りの場所をぎゅっと包帯で一巻きしてからそのまま赤を覆った。白がじわじわ赤に染まるのを見つめる。

「思ってたほどではないね、血の出る量。」

「…そうですね」

「止めてほしかった?」

「え、っと?」

「そんな顔してる」

 でも、僕は止めないよ。精神の治療も安っぽい慰めも受け付けちゃいないからね。端まで巻き終わった包帯は、ぼやけた赤になってしばらくしたあと広がるのをやめた。ちょっとしか切っていなかったから、止まるのも早い。なんで切るんだい。…理由は特にないです。そう。そっけなく言い捨ててリボン結びにされた包帯から手を離した。


「せんぱい」

 一学年上とは思えないくらい細い肩を上から押さえ、そのまま首に手を添えて上を向かせた。避けられる前に軽く唇をくっつける。

 (なんで切るのなんて)(そうでもしないとせんぱいがこっちをみてくれないでしょう)。血の気が多いのか、切ったら落ち着くし。

 これを過去のことと、魔が指したなどと言うつもりはない。先輩は不運でよく片付けるけれど今回はそれも認めてやらない。偉そうだけど、これだけは譲れないのだ。だって俺は先輩のこと大好きだから。俺が俺を傷付けるのは、先輩のため。俺が俺を殺す日も近い。






100918/むすんでひらかない

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