伊作が水溜まりに突っ込みそうになったので、思いっきり引いてぎゅうっと抱き締めた。危なっかしい。ので目が離せない。先生から「お前の成績は本来い組なんだが、善法寺伊作からお前を離したらアイツ死ぬかもしれないから」、と頭を深く下げられたこともある。気にしてないし離れる気もさらさらないが。

「留さんありがとー」

「どういたしまして。転ぶから急ぐなよ」

 額を軽く撫でてからぱたぱたと服をはたく。細いことがよくわかるので、最近食堂の売り切れにひっかかっていることも把握した。今度一緒に行って是が非でも食べさせなければ。

 至近距離を気にもせず、抗わないままお礼を言う伊作の頭をぽすぽすと撫でる。猫っ毛が指にくるくる絡んできて気持ちいい。どこで破れたのか、肩が覗いていたので目のやり場に困った、なんてことはなく、六年間築き上げてきた俺の理性は固く分厚い。褒めろ。
 衝立がない頃は大変だった。(何かあるたびに厠へ駆け込んだり布団に伊作が潜り込んだりで。)衝立を置き始めた直後は、衝立の向こう側の衣擦れの音が、鼓膜に張り付いたみたいだったこともある。今はただ懐かしい。よくここまで、犯さず耐えてきたものだ。

「何してたんだ」

「雑渡さんに貰った種を埋めようと思ってね」

「今までいたのか」

「うん。お茶してた」

 この野郎、いや、あの野郎と言うべきか。なんで、来る。俺の伊作のところに。
 とめさぶろう?と伊作が俺の顔を覗きこんで我に返る。なんでもない、少し殺意がわいただけであって。

 独占欲と庇護欲のジレンマ、とでもいうべきか。守って、閉じ込めて、誰にも見えないように、誰にも触られないように、したい。まだ足りない。腕と足を切り取って、目隠しをして、口をふさいで俺なしでは生きられなくして。みたいとも。(思ったりするのだ。)(しないけど。)






100909/どちらにせよいつか捕まえる

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