※現代/先生 甲高い声と騒がしい音に、学園が少し静かになった(気がした)。入ったばかりのざわつく教室の黒板に、自習と書いて静かに、と低い声を出したらひそひそ話は聞こえるが大分落ち着く。音を無視する訳にもいかずに念を押して大人しくしてろと指示を出してから廊下に出た。チョークのついた白衣がぱたっと翻る。 「食満先生。お前授業じゃないのか」 教室から出て渡り廊下の前を通ったら階段の方から文次郎と仙蔵とかち合わせる。 「授業だ。音がしただろ?何があった?」 「なんだ、知らないで出てきたのか?伊作…善法寺先生が女生徒を庇って階段から落ちたらしい。今見てきた」 今月入って何回目だよ。さあ、今月はまだ二回目くらいじゃないか。まだ、な。二人が伊作を馬鹿にしながら、それでも至って真剣に話し合うのを聞きながら頭をがりがりと掻きむしる。長次は確実に図書室に引きこもっているし、小平太は確か体育のアシスタントに行っている。こいつらはここにいるということは他の先生が行っているかもしれないから…あーもうよくわからん。 「クラスは?」 「は?」 「どうせ善法寺先生が心配で仕方ないんだろう?東階段の三階。行ってこい。 で、私は今授業がないからな、代わりに授業だ。早く言え」 「ああ…すまん、1Cだ」 「らしい。文次郎行ってこい」 「……お前珍しく優しいなと見直したのに俺が行くのか」 まあいいけどよお、なんか…。等と不満げにぶつぶつ言ったあと小走りで教室に文次郎は向かっていった。その背中を見ながら仙蔵が楽しそうにしているのを見て申し訳なくなる。今度、飯奢る。 「伊作!」 「食満先生名前…まあいいや、どうしたのそんなに急いで」 階段の手すりに頼りながら階段を下りている伊作を、下の段から抱き上げた。少し高低差のついた状態だったので、腰を抱き締めるようにして腹に顔が突っ込んでいる体制になる。俺の肩に腕を置いた伊作を強めにぎゅっとしてから、怪我がないか確かめた。足首と頬と腕。あとは…、と思っていたら伊作が女の子にはね、と口を開く。 「怪我は僕のお陰でなかったよ、確認もしたけど擦り傷一つなくってさ。」 代わりに僕がこんなだけど、と手をひらひらさせた。お前が怪我すんなよ…馴れてるけど。今更だけど。 肩に担ぎ直そうかと思って、やめる。軽すぎる(薄っぺらくて皮しかない感触である)体を片腕で支えてひょいっと横抱きにした。保健室行くぞ。うん。生徒は、怪我ないからいないんだよな。 「?うん。っわ!?」 軽くこめかみにキス。ほっぺたと首にもしながら、階段を下りる。ぎゅっと目を閉じたのでまぶたにもちゅ、と、する。生徒は授業中で特にいないので心配ない。保健室に行ったらどうしようか。…知らない。完璧に拗ねてしまった伊作を宥めて、階段踊り場の窓から駐車場を見た。目立つピンク色の車(皆の反対を押しきった末のまっピンク)があったから、帰りは俺が運転しよう。それなら伊作の腰がどうなっても大丈夫だろうし。 100824/狂おしいほどピンク色に似ている |