貴方の勝ちだ、と血とともに滑り落ちた言葉は私の鼓膜を揺らさない。利吉くんの足元に溜まる赤い水溜まりを見てもう手遅れだ、と思った。よくわからないけれど。水溜まりに映る利吉くんは濁っていて、本物を見ると胸が、これは言わないでおこうか。

 刀をずるりと引き抜くと、利吉くんは私の首にあてたまま動かさなかった刀をからん、と落とした。それをあてたのは君の方が先だったはずなのに、なんで殺さなかったの、とは、聞かない。聞いてももう意味のないことだ。
 ぐずぐずと消化しきれない感情がぼろりとこぼれ、今にもちぎれそうな何かはぎりぎりと音をたてている。君なら確実に、避けれたでしょう?言いたいことを言ってみる。どうして私を殺そうとした、あえて言うなら確かめです、なんの、愛情の、と言葉を交わすたびに利吉くんは赤をこぼした。愛情なんて、いつもあげて、いた。

「それでは、たりなかった」

「どうして」

「私は、あなたの一番になりたかったから」

 なれはしなかったけれど、と利吉くんは笑う。馬鹿じゃないの、そのあとに続けた言葉にもう意味はない。
 愛してくださいと会うたびに言っていたのは一種の救難信号だったなら、それが目に見えも聞こえも触れもしない何か、だったとしたら。だとしたら。

「利吉くん」

「はい」

「あいしてる」

「はい」

「あいし、て」

「ごめんなさい半助さん」

「本当だよ馬鹿野郎」

「…ふふ、」


「あい、していた」



 いつもより数倍甘い愛情を君へ。

(何故泣いているんですか)(私がそれを止めることはできますか)(ねえ)(こえは)(とどいて、いますか)






090429/星は無用

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