※獣耳



 獣道、と呼べないくらいの道を歩く。蔦が伸び、木が生い茂る中、折れた小枝や枯れた葉を遠慮なく踏んでった。まだ早朝の森は、町とは比べ物にできないほど静かである。聞こえるのは虫と、鳥と、足音。私と、竹谷先輩の。前にいる竹谷先輩は、バランスを取るようにふさふさした尻尾を揺らしていた。
 ちち、とさえずりながら寄ってきた鳥を指で迎え、舌を打ってみる。そうすれば指に加え腕にも肩にもとまる。頭の上にある耳をついばまれたので、自分の意思とは無関係で揺れ、長い尾もそれに反応して左右にゆるく振れた。(先輩は知らないであろうが、私は犬ではなく狼である)(知らないふりをしているだけかもしれないが。)

 鳥の鳴き声がやかましくなってきたころに竹谷先輩が振り返る。さながら「喜八郎、うるさい」と言わんばかりに、というかぱたぱたと手のひらで追い払ってしまったから実際うるさかったんだろう。耳をこねくりまわさないで。嫌がらせしないでください。

「なにするんですか…」

「お前の耳はかっこよく立っててずるいなあ、と」

「竹谷先輩もびっくりすればちょっとは凛々しくなるじゃないですか」

 ぱしっと姿勢を低くして足払いしたがすんでのところで避けられる、のは、わかっていたのでそのまま押し倒す。余裕の表情で下から私の鼻の頭を摘ままれたことむかついてがぶりと竹谷先輩の耳に噛みついた。わしゃわしゃしていて唾液が必要以上にでた。がじがじとかじりつきながら雑草と絡む竹谷先輩の髪を見てそっと手に絡めた。






100808/目も閉じれぬ

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