※現代 ポップでコミカルな音楽がそこかしこから聴こえてくる。ディーパディドゥッダーとしか聴こえないそれは、なんと言っているのか俺にはわからない。そんなくだらないことに集中していないと頭と体がどうにかなってしまいそうなくらい緊張している俺は、さりげなく恋人繋ぎになっている左手を見た。彼は緊張のきの字もないらしく、キョロキョロと(いつもの彼より若干楽しそうに)している。そんな彼がさっき買ってくださいとねだったポップコーンの容器が、少しかさばって邪魔だった。まあだからといってどうということもないが。 「先輩、ワッフル食べましょうワッフル」 「いいけど、その前にファストパス取ってきてもいい?」 「絶叫系ならいいですけど」 う、とちょっと言葉につまってから(しかし嫌だと言うわけにもいかないので)うん、と答える。絶叫系。たかが絶叫系、されど絶叫系。浮遊感がどうにも嫌いだ。だってあれ内臓が動いてるから気持ち悪いんであって、気持ち悪いとか思うよりむしろその事実が気持ち悪いだろ?と前に八左ヱ門に言ったら鼻で笑われたことがある。許すまじ。あの憎たらしい顔を忘れることはないと思う。一発殴っただけじゃ足りない。 少しいらついているところに、綾部が俺の顔を見つめる。そんなに嫌なら別にいいですよ。色白い手が俺の額をなでり、よしよし、と慰められた。いや、別に八左ヱ門がうざいだけで綾部に怒ってるわけではない。でも腕を伸ばして俺の髪の毛を指ですく様がとんでもなくかわいいのでされるがままになっておく。…八左ヱ門グッジョブ。 「ありがとう綾部」 お返しに俺も撫で返す。今日の気温は少し高いにも関わらず綾部は汗ばんですらいない。俺絶対べたついてる。でも綾部は俺の髪から手を離さない。 やってるうちになんだか気恥ずかしくなってそろそろと手を引っ込めた。 「…」 「あ」 着ぐるみ。それだけ言って綾部は至極簡単に俺から離れた。考えてること、知り合ってから結構たっているけどわからないなあ…。綾部が歩いていった方を見たら白い兎と戯れている。周りのやつらも(極端な話綾部は顔がいいので)それを見ていた。写真撮ってあとで待ち受けにしよう。それでさっさと追い払おう。 100801/燦々 |