※現代/男体



 ユキは俺に優しすぎて、甘くて柔らかくて、ふわふわのねこっ毛を纏い、みんなから好かれる人気者である。家柄とか抜きにしたって人間性というものが良く出来すぎているのだ。
 その辺の女子に声をかければふらふらっとついて来、男子にだって人気者でクラスの中心で、幼い頃から一緒につるんでいるとはいえここまで差があると不安にもなる。シゲは気にしていないが。(そういえば長期休みを明けたら劇的に痩せていた)(この話しに関係はない。)
 俺に甘いのはいつもなのだが、最近目に余るほどに膨れ上がっている。少し間違えたら縛られていると感じるほどに。波が来ているのかと思った(前から時たますごくべたべたになる時期があったからそう思った)。しかし、どうやら違うらしい。こいつは何を求めているのか。

「ユキちゃんはトモミちゃんのこと大好きだからねえ。今更?」

 昼食の合間に折れそうなくらい細くなったシゲのアドバイスタイム。ちなみにユキは飲み物を買いに行っている。(俺も誘われたが丁重に断った。)

「やっぱり勘違いかな…」

「さあ?でも、嫌われてるとかじゃないんだから、いいんじゃない?というかトモミちゃんが避けてたから、それが嫌だったんじゃないの」

 避けてねーっつの。ただ周りの会話を断ち切ってまで俺にくっついてくるユキに見付からない程度に気配を消していただけ…。あれ。

「なんで知ってんだよ」

「わかりやす過ぎたよ」

「マジでか」

「うん。―――あ」

 普通に会話していたらシゲがびっくりしたように口を開けた。するりと長い腕が俺を捕らえる。ごめん、と口パクでシゲが謝った。お前は悪くないんだけど。

「トモミちゃん、何してるの」



「シゲとはいっぱい話して僕から逃げるの?不公平だよ、僕とも話そう」

 逃げてない、言おうとしてユキの胸に飛び込んだ(抱きしめられたとも言う)。「…ちょっとしんべヱのダイエット励ましに行ってくる」。シゲが椅子を鳴らして早足で教室から抜け出した。逃げた。あいつ逃げやがった。
 きゅっと後ろから軽く抱きしめたままユキが、俺の髪をくるくる遊ぶ。そのまま滑らかに俺の両頬を押さえ上を向かせた。そこにあるのは綺麗すぎて怖いくらいの、笑顔。ね、オランダにでも移住して結婚でもしようか。…は。あんまりにもトモミちゃんが逃げるから、既成事実だけでもね。

「強さとかそーいうのは買ってあげられないんだけど、それ以外は全部君のものになる。この不規則な雲も、今立ってるこの星も、今視界にあるもの…なくてもぜんぶ。宇宙は流石に…骨が折れるけどどうしてもって言うなら。
だから。だからね、トモミちゃんは僕ので、僕はトモミちゃんのものだ。
それだけわかってくれれば監禁はしないであげる」


 俺はあまり二次元とか興味はないけれど、シゲのおかげで知識はあるからこれだけは言える。ユキはヘタレでヤンデレで俺様だったのだ。






100727/アンチトムソンガゼル

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