背丈ほどに伸びた向日葵が、太陽の方向を見つめていた。
 それに便乗して私も向日葵を見つめる。太陽が背中を小突いてひりひりしてる錯覚がしてくる。太陽、間違った向日葵は、茶色を中心にきらきらした黄色が拡散している。何枚あるんだろうか。ひい、ふう、みい、と数え始めたところで視界がぼやけた。体調が崩れたのではなく、実際にだ。網目模様が。

「帽子被ってないと死ぬぞ」

 竹谷先輩の声。虫取り網の網部分を私の頭に被せたらしかった。何するんですか、と言う前に、ざばっと水を頭からかけられる。冷たくはない。虫取り網を退け、地面に転がしたあと竹谷先輩はもう片方の手に持っていたバケツから柄杓を取り出した。
 ぱしゃん、と水が土を濃くする。竹谷先輩は麦わら帽子を被っていて袖を肩までまくりあげているから、見るぶんには涼しげである。実際私と変わらないだろうが。手拭いの上から麦わら帽子をやっているから、きっとあのぼさぼさの髪にも絡まないのだろう。髪の結び目も低い位置にある。なんてどうでもいいことを、髪の毛をしたるぬるい水が手の甲に垂れたところで考えるのをやめた。

「向日葵はどうして太陽を向くんですか?」

「?向日葵がでかいからそれが特徴的に見えるだけで他の植物も大抵同じ動きだろ。」

「じゃあ竹谷先輩はどうしてここに?」

「見りゃわかんだろう、水やりだ」

 こんだけ暑いと干からびるだのミミズが干からびて死なれると土の品質がどーたらこーたら。興味ない、と一刀両断するわけにもいかず(久々知先輩やタカ丸さんなら余裕だった)(失礼ですね。)、流す。いやに饒舌である。
 落ちていた虫取り網をおもむろに手に取った。軽くて長い。殺傷能力のない薙刀のようだと、ぶんぶん振り回してぴた、と構える。上段。これが虫取り網じゃなければ、殺せたの、かもしれない。

「喜八郎、それで殴ったらぶっ飛ばすからな」

「、…」

 引っ込めた。ぽいっと投げて竹谷先輩の足を引っ掛けようとしたけど失敗に終わり、またもやばしゃりと水をかけられる。もうびしょ濡れなんですけど。熱中症になる前に部屋に戻れよ。聞いてないでしょう、ねえ竹谷先輩。こんなくそ暑い中心配して出てきてやった俺に感謝しろ。

「え」


 みーん、と蝉が一鳴き。

 呆然としていたら、被っていた麦わら帽子をしゅっ、と縦に回しながら放り投げられたので、思わずキャッチする。早く被れよ。竹谷先輩はバケツをひっくり返して向日葵に水をやった。






100725/不思議の国のアリス症候群

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -