トラックの上にかがみながら隣の留三郎の様子を見た。どうやってバランスを取っているのか謎だがすらりと立っている。向かい風大丈夫?と尋ねたら、スパイク改造してあるから、と足の裏を見せてくれた。うっわ。

「仕込んだの?」

「ちょっとな」

「毒は?」

「ほんのちょっとな」

 くすくすと顔を見合わせていたら鉢屋が運転席から顔を出す。前見て走んないと危ないよ。大丈夫ですよ。まあ鉢屋だから心配ないだろ。先輩達いいなあ二人一組で。
 雷蔵…と名残惜しげに呟いて鉢屋は顔を引っ込める。少し空いた車との間を埋めるようにアクセルが踏み込まれた。煽ってやるなよ、ただでさえ僕らを見てびくびくしてたのに。ほんとごめんなさい。サイドミラーでちらちらとこちらを見ているので出来る限りの優しい笑顔を向けたら、強ばった表情が少しだけ緩んだ。と思った途端に留三郎の手が僕の顔に被さる。

「何すんのさ」

「…別に」

 そのまま僕を抱き込み座り込んだため、アングルの問題で運転手さんは見えなくなった。ただ風の抵抗が少なくなり、僕は留三郎の腕の中にいるのでさきほどより安定している。あったかい。つーかむしろ暑い。
 嫉妬深いな留さんは、と。思ったが口に出さない。多分それで痛い目見るのは僕だし。少しだけ笑ったら留三郎がはあ、とため息をついて前髪を撫でた。くしゃりとかき回されぐしゃぐしゃになる。手が離れた瞬間に風によってまた乱れた。ああもう邪魔。



「せんぱーい」

「はーい?」

「そろそろですよ」

 路線変更をさらりとやってのけ、先ほどの車から離れる。割り込んだ方にクラクションを鳴らされたが、鉢屋は徐々にスピードを上げて逃げた。大型トラックが近付いてくる。鉢屋のことだから一般車両が巻き込まれても気にしないんだろう。任務は留三郎に任せて、手当てに専念することが、今回の僕の仕事である。






100718/ただそれだけの簡単なお仕事

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