前略。
 一日、花畑に向かう俺をはたから見れば滑稽なのだろう。長家の屋根を飛び越えて走る俺は自分でもくだらないと思う。
 二日、夜は思う以上に明るいものである。それが嫌になるくらい身に染みて制限時間を急かされているようだ。
 三日、昼は案外静かなものである。生ぬるい陽気。それすらも俺を満たす物質だった。楽しくて嬉しくて優しい。やさしい。
 四日、朝は嫌いだ。くる度くる度死に近づいているから。そんなこと言ったらどの時間もそうなのだけれど。
 五日、辺り一面に広がる淡い色が胃のすぐ下をくすぐった。吐き気がする。
 六日、「吐いて死ねばいいよ」
 七日、「死なないよ」
 八日、「死にたいよ」
 九日、何故だかひどくむなしいい。
 十日、(何故だかすごく寂しい。)
 十一日。
 十二日、お前には俺の限界が見えていただろう。弱くなっていく様を見ていただろう。
 十三日、十四日、十五日、十六日、十七日、中略。
 十八日、ありふれた感情を言葉にするのは難解である。
 十九日、「悲しくて泣きたいなら寂しく死んだ方がマシだ、そうだろう。違うなら何とか言ってくれ、死にたくなる。目開けて、しかと見てて。俺を見てて。」
 二十日、「ノーコメント」
 二十一日、酷としか言えない返答は俺の内側を掻きむしっていった。爪を立てていった。不具合を生じていった。
 二十二日。
 二十三日、そんなこと気にならないくらいに。
 二十四日、黙ってて。
 二十五日、死ぬほど恋しい。
 二十六日、黙ってろ。
 二十七日、泣きたくなるくらい愛しい。
 二十八日、気持ちが悪い、不快、不愉快、汚い、うるさい、うざったい、馬鹿らしい、憎たらしい、恨めしい、悔しい、苦しい、痛い、辛い、怖い?恐ろしい?(いとしい?)
 二十九日。
 三十日。
 三十一日、「ずっとずっとすきだった」

 三十二日、はたして、これは正しい判断だったのか。叶わないとわかっていて求めるのは正しかったのだろうか。叶わないとわかっていたからこそ間違っていたのかもしれない。雨が降り始めた。鉛色の曇天が心の奥までぎゅうぎゅうと潰しているようで。今日でおわりの日。終わりくらいは華麗に生きよう。華やかに死のう。こぷりと、胃からか肺からか知らないが真っ赤な血が許容量を溢れ出る。それに咽び、とめどなくあぶれていく。悲しいのは俺だけです。他のみんなは悲しくないんです。だからね、この一ヶ月くらいは俺のものに。

 全部嘘。これも嘘。嘘じゃないことはただひとつ、俺とあいつが世界で二人存在してるってこと。(これも嘘かもしれないの!)
 後略。






100620/ワンマンスエンダー

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