※現代



 黒髪で短髪で髪質がゆるゆる、目は濁ってて黒、ついでにパーカーとパンツ、靴も黒で、肌が白いモノトーン人間が、そこにはいた。そこイコール僕の家(アパートの部屋)の前。今時こういう人っているんだ。そう思った。
 いなくなるまでコンビニ行ってこよう。くるりと方向を変更し少し歩き出した瞬間後ろからの足音が聞こえる。白黒はするりと滑らかに軽やかに、僕の目の前に立った。
 近くで見ると、異様なまでの肌白さがわかる。美白というか青白きインテリ。ゆらゆらと髪を揺らして小首を傾げた。

「どこに?」

「…いえ別に」

「なら帰ればいいんじゃない?」

「誰ですか、警察呼びますよ」

「遠慮する。俺は尾浜勘右衛門。ふふ、すごく俺を探っているね。怪しいものじゃないよ?」

 ちょっとね、日課みたいなものかな、と笑顔で言ってのけるそいつにドン引きした。面倒臭い。三郎がいれば追い払ってくれるんだけどなあ(生憎ながら今日はバイトだ)。これが何と言う行為か僕は知っている。認めたくないけど。しかし認めたくないに認めたくないを二乗してもう一度事実に目を向けるとこのことに筋が通ってしまうのだ。くわばらくわばら。こんな余裕ぶっている僕は、今凄く焦っている。
 (どうしよう。ストーカーなんて初めて見た。)

 君の名前は?なんて聞かれても答えたくないに決まっている。しかし自分から聞いた手前言うしかない。視線を外したら、田中クリニックの文字が見えた。うん。もうこれでいいかな。いやでもなあ。ううん。
 ずっと悩んでいるわけにもいかないので躊躇いながらも口を開く。

「…田中です」

「うそだあ」

「本当に」

「嘘は泥棒の始まりだよ?俺の心はもう奪われてるけど…、なんてね」

 気持ち悪っ。
 適当に受け答える。そしたらにやりと笑ってどうにも好きになれそうにない顔になる。テレパシーでも出してしまったのかと思った。そしてそれをキャッチされたのかとも思った。それくらい気味が悪かったのだ。
 今日はタナカさんに会いに来ただけだから心配しなくてもいいよ。田中を強調し、すたすたと歩いていくそいつは最後に手を高く挙げてゆるりと振った。

「じゃあね、雷蔵」






100615/獲物をそっと追うひと

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