※現代



 向かいのホームには兵助と雷蔵がいる。なんでもこれからバイトに行くのだが、方向が同じなんだって。って三郎が言ってた。二人がこちらに携帯を向けたので三郎とピースして線路を挟んだまま笑い合った。(補足として勘右衛門は呼び出しをくらっている。)(あいつ不真面目だから。)
 まだ五月だと言うのに最近の日本は暑くて、溶けてしまいそうだ。半袖のワイシャツの下に何か着るのも面倒で、第三ボタンまで開けていても涼しくない。全く。地球温暖化ってどうやって改善できるんだっけ。人間が環境問題を解決する前に太陽が燃え尽きちゃうって話だけど。
 まもなく、一番線十両編制、各駅停車××行きが到着します。黄色い線までお下がりください。

「じゃあまた明日な」

「宿題忘れないようにね」

「おう」

「雷蔵の部屋にいるから」

 三郎に苦笑いしてから電車に乗り込んだ二人に大きく手を振る。かたたん、とゆっくりゆっくりスピードを増して電車が線路を辿って行った。ずっと、見る。周りは建物ばかりの中、線路のお陰で見える地平線。そこに吸い込まれて行く電車。視力二・○が辿れる最後の最後まで見つめてから、向き直りホームの端にふっとローファーの踵を落とす。靴擦れを思い出して、瞬間に激しい痛みが小指と甲とアキレス腱を襲った。いてえなあ。痛いのは血が流れている証拠と誰かが言っていた気がする。
 まもなく、二番線、電車が通過します、黄色い線までお下がりください。誰の声かは知らないアナウンスが入る。それを聴いて黄色い線の内側に入りこっそりとスタートダッシュの準備。三郎は携帯をいじっているから大丈夫。全然大丈夫。一番迷惑だけど一番清々すると思ったんだよ。

「何が?」

「…なーんでもない!」

 ちゃんと聞いててくれる三郎に、ぐしゃっ、で終わりだろ?、なんて言えなかった。血はどうなるのかとか体はどうなるのかとか。やっぱり粉々に砕けるのかとか。それは俺にわからない。わかるのは、三郎と、多分駅員さんと死体処理をする方々。ごめんなさい。
 カンカンカンカンと近くの踏み切りが騒ぐ。スピードを緩めない貨物用列車がホームに走ってくる。鳴り止みそうなくらい激しい心臓の鼓動が、くすぐったい。
 よーい、どん。たっ、とちぎれそうな足は、軽快な音を立てた。雲一つない、ある晴れた昼下がりの、屋根のないホーム。終わりに、さっきみたいに緩やかではないけどもまた、くるりと回転して三郎の顔を見てから、ライトブルーの空を見上げ。(音がなくなって色がなくなって俺がなくなってって)(す、てき、だ!)






100605/これにて終演!

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