お題にこめ。眼球舐め。
唐突に始まって唐突に終わる。
【手を伸ばしたって、届きやしないんだ。】




暗闇の中、その中央にぞんざいに床に放られながらチリ、と僅かな月明かりを反射するロザリオに手を伸ばす。
全身に奔る軋む様な痛みに低く呻けば、おいおい、と嘲笑まじりの声が上から落とされた。
馬乗りになった男の左掌が、耳の上辺りから髪を、頬をと掠めるように撫で詰められた神父服の襟を乱す。
その間にもひたすらに、動かずに届く筈もない距離だとと理解していても手を伸ばさずにはいられなかった。
言うなればあれは自分の理性や矜持、意地の象徴の様なものでもあった。
霞む視界の中、それでも自分の手が震えているのが解り、歯を軋ませる。
「そんなに神にすがりてぇの?」
囁く声は日中よりも一層低く、抑揚に乏しかった。
視覚の隅に追いやったその男がどんな顔をしているかは落とされた影で解らなかったが、それでも注ぐ冷たさが呆れや嫌悪に近い何かであると認識させる。
もしかしたらその唇は珍しく笑みを浮かべていないのかもしれない。
しかしそんなことはどうでも良かった。
今はこの掌に確かな銀の質量をおさめたかった。
この男の脳天に銀の鉛玉を撃ち込んでやることが出来ないのならせめて、祈りを。
「そっちじゃないだろ、お前が求めるべきは、」
ぐい、と顎を掴まれ強引に引かれる。
窓から漏れた微かな月明かりすら届かない筈であるのにその銀髪はうっすらと白く輝き、室内よりも影を色濃く落とすその瞳は普段よりも彩度を増し、また紫がかって見えた。
「こっち」
その瞳がくんと上弦の月を模して歪み、薄ら笑いを浮かべた唇が暗さの中で赤と認識するのは難しい舌を覗かせる。
何を、と問うことも叶わないまま、次の瞬間には右目は焦点が合わないほど近くに銀色を映し、左目は闇に染まっていた。
ぬるりとした感触に、理解するよりも先に反射的に瞼を閉じようとする。
しかし眼球に触れていた舌がそれを阻み、抉じ開けるように動いたそれが柔らかさを伴って下から上へと舐めあげていった。
親指が左瞼を持ち上げ、そのまま固定される。
僅かな痛みとえも謂われぬ感覚にぞわりと肌が総毛立ち、無意識のうちに引き剥がす様に服を掴んだ指先が震えた。
生理的な涙がねぶられている左目だけ滲み、またそれを味わう舌の動きに唇が戦慄くのを止められないまま、か細い悲鳴が喉をついてこぼれ落ちた。
「ぃ、っ……ぁ、」
ゆらり、といつもは男の袖口で揺れている蛇が銀色の襟足の向こうで首を覗かせる。
その視線にも舐められているような錯覚を起こし、喉を張り付かせて右目を固く瞑れば男は眼球の上で舌を這わせたまま器用に嘲笑を溢した。
ぼろぼろと、掬われることのなかった僅かに唾液の混じった涙がこぼれ落ちる。
「うん、駄目だな。これ以上やると食いたくなりそうだ」
漸く舌が離れる頃には、眼球はその温度になれ外気を冷たいと認識するようになっていた。
親指による拘束が解かれ、そのまま瞼を下ろすと震える睫毛をなぞるように指の腹が触れ、離れていく。
そのまま自重を支えるためにベッドを軋ませた右腕には、終始を見守っていた蛇が巻き付いていた。
男の腕を締め上げることなく器用に絡みながらベッドに下り、わざと喉の上を這って睫毛を潤ませるに留めた閉じたままの右瞼を下顎で撫でる。
もうやめてくれ、と喉まで懇願が出かかるが、それが音になることは無かった。
「……でもまぁ、左だけじゃ何だしなァ、こっちも貰っておくか」
きし、と男が左腕を折り体重を傾けたことによりベッドがまた小さく軋む。
先程まで左目を満たしていた感触が、次いで右目を襲った。
抵抗すら忘れ、戦慄く指先がすがるように男の黒衣を握りしめる。
ただひたすらに身体を震わせ、この時間が早く終わることを願うことしか出来なかった。






もうこのパロでやらかさないわけがなかった()




20150518

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