■私の選択肢

※仲間モンスター夢主、失恋

「どうしよう……」
 いつになく優柔不断な様子で、迷う素振りを見せる私の主人。
 それもそのはずで――彼は今、結婚相手を選択する、運命の分岐点に立たされていたのだ。

「ねえ、君はどう思う……?」
 ビアンカさんに、フローラさんという方。紆余曲折あってご主人は、そのお二方から結婚相手を選ぶことになったらしい。
 彼は本気で揺れ動いている。町の人からも話を聞いて、本人たちにも会ってきて。それからこっそり町を抜け出して、町の外で待機中の馬車にいる私たちにも、相談をしに来てくれた。生憎、他の仲間たちは、みんな眠ってしまっているけど。
 だが、私にとっては都合のいいことでもあった。私はご主人に最初に仲間にしてもらった。彼の言葉を聞いているのは、最初の仲間の私だけ。それが正直、少し嬉しかった。
「ご主人がどちらと結婚したいか、または今は誰とも結婚したくないか……そういう話ではないですか?」
 結局私にはこんなことしか言えない。どちらのほうが良いですよ、なんて言えないのだ。
「ご主人のしたいようにすることが、一番だと思います。我慢することが、きっと一番良くないですよ」


「なら……君は、どうしたいの?」
 その言葉に、少々動揺する。ご主人の優しい、呑み込まれてしまいそうな瞳に見つめられながらも、私は答えた。
「……私ですか? そうですね、私はご主人と一緒に旅ができれば、それでいいですよ。ご主人の幸せが、私の幸せです」
 それは、紛れもない本心だった。
 ご主人の幸せが私の幸せで、ご主人が悔いのないように行動できれば、私はそれで良かった。
 本当に、そう思っていたのだ。


 それから――ご主人の結婚後、幸せそうに並ぶ二人を見て、密かに思う。
『君は、どうしたいの?』
 もしあの時、私が「ご主人と結婚したい」と言っていれば、ご主人はどうしただろう。ご主人が結婚した今になって、今更考える。
 悔いは、残っていない。彼がしたいように行動した結果がこれならば。私は彼の結婚相手になり得なかった、それだけの話だ。
 スライムナイトである私は、ご主人の幸せを祈り、仕え続けることしかできなかった。


 それでも、これからも旅に連れて行ってください、ご主人。あなたの隣に立つのが、私でなかったとしても。
 そして、これからのあなたの人生が幸福でありますように。私は本当に、それを願っている。


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