■ちょっとした宝物

 最近、島でモノクマメダルとやらを数枚拾った。どうやらそれは、砂浜にあるガチャガチャ――正式名称・モノモノヤシーンに使えるらしい。
 折角だし、回してみようか。そう思って私は砂浜へと向かっていたのだけれど、砂浜には先着がいた。
「……日向?」
 私が少年の名を呼ぶと、彼は振り返り、きょとんとした顔で返した。
「なんだ、お前もヤシーンを回しに来たのか?」
「まあ、そうだけど。……すごい数の景品持ってるね、日向」
「なんだか、惰性でコンプリートしたくなってさ」
 彼の手の中には数多くのメダル、そして彼の足元には大量の景品。こんなに回すなんて、趣味なのだろうか?
「日向ってもしかして、収集癖とかあるんじゃない?」
 思ったことを聞いてみれば、そうかも、と彼は苦笑いした。
 そういえば以前、日向はカクレモノクマとやらを収集しているらしいと聞いたことがある。やっぱり彼には、そういう癖があるのかもしれない。彼の才能は明らかになっていないけれど、もしかしたら超高校級のコレクターなのかも、なんて軽く思う。
「ダブりばっかり出てさ、まだ手に入れてないのがあるんだよ」
「へえ、私も回してみようかな」
「いいな、やってみろよ。何か面白いの出るかもしれないしな」
 日向から順番を譲られ、私は内心ワクワクしながらメダルを投入した。
 そして、出てきた景品は。

「…………」
 二人の間に、一瞬沈黙が流れた。
 何だこれは? その、今まであまり見たことのない物体に同封してあった説明書に目を向けると、そこにはギャグボールと書いてあった。
 ……どう反応すべきなのかわからない。気まずい空気の中、私は日向に声をかけてみる。
「ねえ、日向。……どう、つけてみる?」
「つ、つけるわけないだろ!」
「まあ、そりゃそうだよね」
 誰がこんなものを入れたんだ。モノクマか。こんなものを安易に人に渡したら人間関係が破壊しそうだ。……花村あたりは喜びそうだけど。
「……っていうか日向、こんな変なものが出てくるガチャガチャで遊んでたの?」
「そ、それは違うぞ! 俺が回した時は、その、もっといいものだって出てきた。確かに、変なのもあるけどな」
 ふーん、と頷いて私は手の中にある景品を見た。
 ……本当にどうしよう、これ。

「その……。お前に渡してみたいものも、その、あるんだけど」
 私が微妙な心境になりながら手に持ってる物体を弄んでると、日向にこう言われた。
 こんな空気でそんなことを言われるとは思っていなかった。驚いた私は、うっかり変なことを言ってしまう。
「え? まさか、エッチな本とか渡す気とかじゃないよね」
「だから、違うって言ってるだろ」
 呆れながら日向は、懐からあるものを取り出した。そして、私に手渡してくる。
 なんだろう、これは。素直に手を出して受け取って、まじまじと見てみた。
「これって」
 それは、星の砂だった。
 小さくてキラキラしていて、とても綺麗だ。存外素敵なプレゼントを、半分放心しながらじいっと見つめた。
「えっと、似合うかなって」
 日向はバツが悪そうに言った。否――もしかして、照れてるのだろうか?
 似合うって、どういうことだろう。……でも、素直に嬉しかった。
「へへ、ありがとう日向」
 素直にお礼を言って照れ笑いをしてみたら、日向も嬉しそうに笑い返してくれた。


「このモノモノヤシーンって、こんなに素敵なものも出てくるんだね。今度回したときに、日向の好きそうなものが出てきたらあげるよ」
「……変なものを押し付ける気じゃないだろうな?」
「さあ、どうだろうね」
 軽口を叩きながらも、私は日向からもらった星の砂をギュッと握りしめる。
 これ以外にも変なものも手に入れてしまったけど――そうだとしても、今日は少し良い日になりそうだ。
 この星の砂は、部屋に大事に飾っておこう。そう思って、私は少し笑った。


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