5.光と闇

 どれだけの時間、二人はそうしていただろうか。
 声を出すこともできない、ただ絶望と沈黙だけが満ちている空間。
 先に立ち上がったのはどちらだっただろうか。
 現実を受け入れたくないのに、何故だかふらふら立ち歩き出す、二人の少年少女の姿がここにあった。


「ウッ……」
 酷い悪臭と、凄惨な光景が目に入る。
 今まで何度も悪夢として見た光景だが、村の様子は想像以上に惨たらしい。
 全ての家が焼け、周りには血だまりが広がっている。毒を使う魔物もいたのか、毒の沼地がそこら中にあった。そして、原型を留めていないほどボロボロに崩れた死体。ここに倒れているのは一体誰なのか、それすらもわからない。ただ、みんなが死んでしまった、もう戻ってこないということだけがわかる。涙が溢れ、そして同時に吐き気が止まらなかった。

「シン……シア」

 少し遠くから、私以外で唯一生きている人間の声が聞こえてきた。目を向けた先にあるのは―――かつて花畑だった、あの場所。そして、私がシンシアと寝転がった場所に立つ、『勇者』。今その場所は、花が全て焼け落ち、炎と毒だけが一面に広がっている。
 目に絶望だけが満ちている彼の視線は、彼の手の中に向けられていた。そこにあるのは、

「……シンシアッ……!」

 彼女が生前被っていた、はねぼうし。本来白く美しかったそれの面影はもうない。ボロボロに崩れ、色はくすみ、所々紅く血の色が混じっている。それはまさしく、私たちの幼馴染の最期を思わせた。

「ソロ、行こう、行きましょう……!」

 私は殆ど悲鳴を上げるように絶叫した。私自身も泣いていたが、それ以上にソロが危ないと感じたのだ。もしかしたら後を追いかねない、という気迫すら感ぜられる。ソロの腕を引っ張って強引に外に出そうとすると、勇者は抵抗した。
「やめろ、離せ、離せよナマエ!」
「ソロ、私たちがここにいてもどうしようもないの! 村のみんなはもう、もう帰ってこないんだから……!」
「だからなんだっていうんだ! 俺に……俺にどうしろっていうんだ……」
 ソロははねぼうしを抱きしめ、そのまま崩れ落ちる。彼は全てに絶望していた。彼自身にも、この現実にも、そして私に対しても。
 それでも私は、私にとってもソロにとっても残酷なことを告げなければならないのだ。いくら泣いても叫んでも、それが私の使命であることには変わらない。私が今まで生きてきた、その理由。

「旅に、出るの」

 ソロが顔を上げた。瞳は濁っていて、希望の欠片も見当たらない。
「『勇者』は旅に出て、魔王を倒して、世界に平和をもたらさなければならないの」
「……シンシアが、父さんが、母さんが、村のみんなが死んだのに。まさか、世界平和を謳えって言うのか?」
 ソロは私を睨みつけながら吐き捨てた。そんな彼に、私は首を振りながら、こう告げるしかなかったのだ。

「あなたはもうわかっているはず。自分の心に湧き上がってくる復讐心に。そして、村のみんなの為にも、シンシアの為にも、元凶を倒さなければならないって……」

 私はなんとかそう告げた。暫くの間、二人は無言だった。ソロの瞳が、鋭く私を射抜く。
 永遠に続くとも思われる沈黙。その後に、彼は短く、確かにこう言った。

「……わかった」

 決意を秘めた瞳を持ち、彼はゆっくりと立ち上がる。
「ナマエ」
 そしてソロは、私に対して何かを言いかけた。責められるかもしれない、と心を痛める。何と言われようと受け入れよう、そう覚悟したが、彼は結局何も言わずに歩き出した。
「……旅に出て、デスピサロとやらを倒す。それしかないんだろ、わかってる……」
 彼は独り言のように呟いた。私はその後ろをついて歩く。
「まずは、山を降りましょう。話はそれから」
 ソロは振り返らずに頷いた。


 村の中を黙々と歩いていたが、私たちは村を出る直前、無意識的に足を止める。

『村の外へ出たいか? だが、お前たちが外に出るにはもっと強くならなくてはな』

 門番の兵士に話しかけると、いつも私たちはそう言われてきた。彼の声が聞こえてきたような気がして、今の私たちは一歩を踏み出すことができなくなってしまったのだ。
 それを皮切りに、村の人たちが私たちに話しかけてくる気がした。後ろを振り返ると、今にでも彼らが生き返って、呼び止めようとするのではないかと、どうしても思ってしまう。そんなこと、あるはずはないのに。
 ソロも同じなのだろうか。私たちはどちらともなく、後ろを振り返った。だがその先に見えるのは、かつて私たちが暮らしていた村だったもの。私たちが大好きな村だったもの。だけど、私たちの大好きな人たちは、もう返ってこない。私たちの大好きな村は、もう返ってこない―――

 二人はまた、何も言わず、どちらともなく外の方を向いた。見慣れない、青々と茂る森が見える。この先には一体、何があるのだろう?


 そして私たちは、思い切って一歩を踏み出した。
 復讐の旅の、始まりだった。


ソロ Lv.1
職業:村の少年→勇者 性別:男
HP20/25 MP 5/5 攻撃力:19 守備力:9
E銅の剣 E布の服 E皮の帽子
持ち物:はねぼうし、薬草他
習得呪文:ニフラム
ナマエ Lv.1
職業:村の少女→旅人 性別:女
HP15/17 MP 6/8 攻撃力:6 守備力:6
E布の服
持ち物:薬草、毒消し草
習得呪文:アストロン

所持金:3G

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