■君と龍退治に行きたい

▼ドラクエ3ネタ(夢主と花京院がドラクエ好き)

「つ、疲れた……」
「お疲れ、名前」
 過酷な旅を始めて、しばらく経つ。疲れ切ってホテルの部屋のベッドに倒れ込む私を、花京院が労ってくれた。
 最初の頃は男性と同室になることにも抵抗があったが、着替えとシャワーにさえ気をつければ、最近は誰と同室になろうと気にならなくなってきた。みんな、基本的には紳士だ。ポルナレフだけはちょっと危ない気がするけど。
 そして今日は、私がやむを得ず単独行動をした際にDIOの刺客に襲われ、孤軍奮闘を強いられた。なんとか倒したが、身体中ボロボロだ。全く、年頃の女の子だからって容赦しないで攻撃してくるんだからなあ……。

 そして私はため息をつく。身体中が痛い。今すぐにでも寝たい。
 そう思っていた私に、花京院はこう申し出てきた。
「名前、手当しようか? 腕にキズが残っている……君だって、傷跡を残したくはないだろう」
 確かにその通りなのだが、傷の手当てすらもう面倒くさい。消毒は傷口に染みるからあんまりやりたくないし……。
「うーん、寝れば治るよ」
「……確かに休息は大事だ。だけど、ドラクエじゃあないんだから、寝るだけで全回復とはいかないだろう。手当てもきちんとしないと」
「それもそうか……あっ、ジョースターさんの波紋で治してもらえばいいんじゃない?」
「それもいい手だが……まずは消毒だ。ここは日本じゃあない……君はもうちょっと衛生面にも気を遣わないと」
 花京院に軽く正論を言われてしまった。仕方ないので、渋々起き上がり、花京院の手当てを受ける。腕の傷に染みて痛い……が、ありがたく手当てを受けることにする。自分ひとりだったら面倒で放置して、悪い菌でも入れてしまったかもしれない。花京院の気配りには感謝しないと。


「はい、完成。今日は安静にするといい」
「うん。ありがとう、花京院」
 花京院にお礼を言いながら、私はふと、顔を上げた。
「そういえば、花京院……ドラクエ好きなの?」
 ドラクエ。それは、社会現象を巻き起こしたほど人気のあるRPGのファミコンゲームである。さっきの花京院の言葉に、さらりと入っていたのが、今になって気になってきたのだ。
「そりゃあもちろん。ぼくはゲームはやり込むたちでね、ドラクエ3はもう三週したよ」
「え、すごいねそれ! 私、一周しかしてないや」
「フフ……ドラクエは一人で黙々と遊べるゲームだからね。何回遊んでも新しい味わいがある。名前も日本に帰ったらまたやってみるといい」
 ゲームについて話す花京院は楽しそうだ。彼は、思っていた以上にゲーマーらしい。そんな花京院を見ていると、私もゲームをやりたくなってくる。
 ……そういえば私、花京院の趣味とか知らなかったな。いい機会だ、少し話してみることにしよう。

「花京院は……勇者のりあきなの?」
「まあ、そうだね。主人公には自分の名前をつけたくて」
 勇者のりあき。……その響きを聞いて思った。
 ドラクエ3は、パーティメンバーの職業と名前を決められる。これって……私たち旅の仲間をドラクエの職業に当てはめられるのではないか?
「承太郎は……武闘家かな……スタープラチナが速くて強くて武闘家っぽい」
 私の言葉に、花京院は楽しそうに笑った。どうやら、私のやりたい意図は伝わったらしい。花京院も、私の言葉に乗ってくれる。
「承太郎だと名前四文字に収まらないな。武闘家・たろう、かな」
 ドラクエ3はキャラクターの名前を決められるが、四文字までしか設定できないのである。
「ポルナレフは戦士かな。でも、戦士って素早さが低いから合わないかな……」
「アヴドゥルさんは魔法使いかな。魔術師の赤……フフ、彼にはメラ系もギラ系も似合う」
「それなら、ジョースターさんは……商人かな? 不動産王だもんね」
 大方出揃ってきた。こうやって花京院と二人で取り留めもない話をするのが、楽しい。
 ……それにしても、回復係がいなさすぎるな、このパーティ。いい制限プレイができそうだ。

「私……私は、何だろう?」
 と、ここまで来て、私が最後の一人になってしまった。
 ……私のスタンド能力と合うドラクエの職業なんて、あったっけ?
「名前は……遊び人とかどうだろう」
 真面目に答えた花京院に、思わず変な顔をしてしまう。
「私が!? 花京院、私のことなんだと思ってるの……!?」
 遊び人。それは戦闘中でも遊んでばかりの、役立たずと言われる職業だ。私はそんなにゲームが上手くないので、そういう不確定要素は入れにくくて、ゲームのパーティには入れたことがないが……。
「ああごめん、悪い意味じゃあないんだ。むしろ……君はいつも、人のことを笑顔にしてくれるから」
 そして、花京院はおかしそうに笑った。
 ……遊び人という職業のことをそう考えたこともなかったし、花京院が私のことをそう思っていることなんて、考えたこともなかった。
「……そう?」
 だから、結局私は笑って許してしまった。
 花京院がそうやって笑ってくれるなら、それでいいかなと、そう思ったから。


 そして、二人で笑った後で、私は言う。
「この旅って、ドラクエみたいだなって思うんだよね。信頼できる仲間と、悪の親玉を倒しにいくの」
「……確かに、そうかもしれないな」
 タイムリミット五十日の旅路。悪の親玉を倒して、ホリィさんのことを救う。そのためなら、正しいと信じる道へ行くためなら、命だって賭けられる。
 花京院は感慨深げに頷いたと思ったら、ふと、私のことをこう誘った。
「なあ名前、日本に帰ったら、……一緒にドラクエ、やらないか?」
 その誘いは、予想外のものだったが――それでも、素直に嬉しかった。
「え、やるやる! 花京院がどんな風にゲームするか、見るの楽しみだよ。勇者のりあきと、遊び人名前で」
「名前のセーブデータでは名前が勇者なんだろう?」
「それもそうだね。じゃあその時は花京院が遊び人だ。花京院も、私を笑顔にしてくれるから」
「……参ったな」
 そして二人は笑う。これからの旅路も厳しいものになるだろうけど、それでも、その先の未来への希望は見つかったと、そう思ったから。

 そして、今日も夜は更けていく。傷の痛みは、少し響く。一晩寝たくらいでは、全快になるとは言えないかもしれないけど。
 きっと、私たちはハッピーエンドを迎えられる、そのはずだ。それを夢見て、私は、眠りにつくのだった。


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