12
「あたしはミカ。ランクはAAよ。宜しくね」
「宜しくお願いします」
「シャルネのランクは?」
「SSランクです」 「え、なんだって?」
瞬きを繰り返し近付いて来る。 有り得ないと訴える顔と共に、興味を示した人形独特の、そして人間によく似た瞳を向けてきた。
「SSランク」
「シャルネは、僕より強いんだ」
何処からかリト兄が顔を出す。 一体何処で話を聞いていたのやら。
「リト兄より強いですって? まあっ、そんなこと、あの、絵美子が知ったらどうするのよ」 「絵美子?」 意のままに質問をする。
「腹の立つ人形よ。確か部屋は《B-1》だったわね」 「シャルネが来る前まで、この屋敷の強さランキングは僕が1位で、絵美子が2位だったんだ」 「アイツね、自分より強い奴許さないし、弱い人形には自慢ばかりしてくるのよ」
どうやら、絵美子という人形には注意した方が良いようだ。 とはいえどんな容姿なのかも分からないけれども。
と、険しい顔を一変させ彼女は続ける。
「にしても、シャルネは可愛いわね。流石はSS。リト兄はリト兄で、あたしのことは、ミカ姉って呼んでね」
そっと頬に手が掛かる。その刹那ミカ…姉の瞳が怪しく光った、のを自分は見逃さなかった。
「図書館行ってくるね」
とリト兄が微笑んで扉を閉める。 何となく、いや必然的に何か嫌な感じを覚えた。
「あ、えっと僕も用事思い……」 「ふふふ、あたしはそう簡単に見逃せないわよ」
適当な言い逃れなど、通用しない。 そう言うや否や、凄まじき勢いでミカ姉は壁近くの段ボールを開く。
「それ、開けるな危険って書いて」 「ええ、あたしが書いておいたのよね」
突如、何かを取り出して間もなく不適に笑った。 一体何を取り出したのやらと一瞬ばかり瞳を集中させる。
「それは?」 「油性ペンよ」
「油性ペンですか」
見た感じを率直に述べると、黒色のペンであろう。 しかしそれを何に使うのだろうか。
「あ、何か分からない?」 「説明される前から分かったら超能力者です」 「ふふふ、それもそうね」
と、事を述べた矢先に腕が強く掴まれる。
「シャルネは顔にかこうとも少しばかり思ったのよね。でも綺麗だからやっぱり腕にしましょ」 「腕?何をかくんですか?」
「«A-4»の模様」
模様?名札代わりみたいなものだろうか。 と、されるがままにYシャツの袖が捲られた。
「この部屋の人は皆、何処かにあたしの描いた紋章が入っているの」
その紋章を描くらしい。 油性マジックで。
「油性ペンってその内いつか剥げ落ちると思いますけど」 「あー、これはタダの油性マジックじゃないわ。魔法で作られたマジックペンなのよ」
ミカ姉が手際良く紋章を描き始めた。
「魔法?魔法ってこの世界では存在するもの?」 「シャルネの知る世界には存在しなかったの?」
その回答的には、魔法が存在するというのか。 それはまた、興味深いことである。
「まあ、あたしらには使えないけどね、外の人間は使えるみたいよ」 「へぇぇ」
と言うならば、今人形に自分の魂が滑り入っているのにも納得せざるを得ないではあるまいか。 魔法で連れてこられた、とか。魔法で生かされている、とか。
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