甘い。
鉄の味がするはずのそれは、ひどく甘く感じて俺の渇きを潤した。今まで何を口にしても感じていた空腹が嘘のように満たされていく。

傷口を一舐めして首筋から唇を離せば、赤い顔でこちらを見つめている名前が目に入った。
申し訳ないことをしたと頭では理解しているはずなのに、何故だか俺の心は満たされている。満たされたのは腹だけではなかったんだ。


「…やなぎ、くん」


名前の困惑しているような声に、こちらに引き戻された。
すまない、と一言だけ告げて彼女から離れる。もう許してはもらえないんだろうかと、心臓が痛いくらいに跳ねて気持ち悪い。


「ど、して…こんな」

「…お前にしか、頼めなかった」


お前しかこの事を知らないだろう?
俺がそう言えば、名前は未だに赤みが引かない顔を隠すように俯きながら小さく「そっか」と漏らした。
頼めなかった、と言うのはあながち間違いではないが、適切な表現ではない。
名前にしか頼みたくなかった。
名前以外に先程と同じ行為をすると思うと、虫酸が走る。


「…体に、異変はないか?」


一度は名前も吸血鬼になってしまえばいいと思った。だが、やはり好きになった女には、人間として幸せな人生を送ってほしい。
もしもこれで名前が吸血鬼になってしまったら、俺はどうすればいい。…考えても答えが出る確率は、極めて低い。


「うん、大丈夫みたい」

「…そうか。すまなかった」


そう謝れば、名前は「気にしないで」と笑った。
そういうわけにもいかない。もちろん勝手に血を飲んでしまったことを謝る意味もあるが、別の意味もある。

今度は食欲ではなく、別の欲求が沸き上がってきてしまったのだ。


君のその顔が
(まさか男を誘うような顔をされるとはな…)

「あれ、蓮二と名前ちゃんじゃないか」
「な、何をしている。ふ、ふふふたりっきりで…」
「…精市と弦一郎か。とりあえず落ち着け、弦一郎」



20100816
 ̄ ̄ ̄ ̄
視点を変えてみました。
最後、ギャグっていうか軽い下ネタですよね、すみません
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