「柳くん、これからどうしよう…」
「そうだな…」
柳くんの誤解は無事に解けたものの、問題は山積みだ。仁王くんとのこともそうだけど、あのメモを書いた子のことも気になる。とりあえずその子のことはメモ子さんと呼ぶことにして。
そんなことをいろいろと考えていると、柳くんが私を見た。…ような気がした。
「本当にそのメモを書いた女子に心当たりはないんだな?」
「うん、全然」
「そうか…。そうなるとその人物を特定するのは難しいかもしれないな」
ああ、仁王くんが血をもらってた女の子はいっぱいいたんだっけ。前に柳くんから、仁王くんは女癖が悪いって聞いたことがある。メモ子さんはその中の一人なんだろうけど、他の子たちにも同じようなメモを渡してたのかな。こればっかりはわからない。
そういえば何であんなにモテる仁王くんが彼女をつくらないのか不思議だったけど、吸血鬼だからだったんだろうか。
「…ねぇ、柳くん」
「なんだ?」
「吸血鬼って歳をとらないの?」
「……おそらく、な。詳しいことは俺自身わからないのだ」
「え、柳くんが吸血鬼なのは遺伝とかじゃないの?」
「遺伝は遺伝だが、俺の両親もその両親も普通の人間だ。俺は先祖返りというものらしい」
「せんぞがえり?」
柳くんの説明によると先祖返りとは簡単に言うと、何世代か前の先祖の形質が子孫に表れること、らしい。柳くんの先祖に吸血鬼がいて、その人の形質が表れて柳くんは吸血鬼になってしまった。ということなのだろうけど、でも…。
「でも…本当にそんなことあるのかな…」
「信じられないのも無理はない。俺も初めは信じられなかったが、こうして人間の血がなければ満足に日常生活を送ることができない体になってしまったんだ。…信じるしかないだろう?」
苦笑いを浮かべる柳くんを見て、とても申し訳ない気持ちになった。疑うなんて最低だ。柳くんは私なんかよりもずっと悩んだだろうし、信じたくなかったはずなのに。無神経だった。自分への戒めも込めて、きゅっと唇を噛み締めた。
とにかく謝ろう。そう思ったとき、ふと視界に入った柳くんの顔が青白く見えた。それどころか、何かを我慢しているみたいに時たま眉間に皺が寄る。
「柳くん、顔が青い…。それに何だかつらそう」
そう言えば、ぴくりと柳くんの肩が跳ねた。図星だったんだ。
でも柳くんは何も言わずにすっと顔を背けた。何かを隠しているのなんてすぐにわかった。普段だったら言いたくないことを無理に聞き出したりしないけど、今回はそうはいかない。
心当たりがあったからだ。
「血が、足りないの?」
驚いたように柳くんが私に顔を向けた。どうしてわかったとでも言いたそうだ。わかるよ、と笑えば柳くんも釣られて笑ってくれた。
「名前の血でなければ駄目なんだ」
ゆっくりと開いていく柳くんの目とその言葉に期待を寄せてしまう。心臓が破裂してしまうんじゃないかと思うくらいにどくどくと音を立てている。そんな私を見てか、柳くんが微笑んだ。
「…少し痛いかもしれないが、俺にまた名前の血をくれないか」
柳くんの手が私の頬に触れた。ずるい。でも、答えなんてもう決まってる。柳くんが好きだって気づいたときからずっと。
「…いいよ。柳くんに全部あげる」
たとえそれで吸血鬼になっても。不死になっても。柳くんと一緒にいられるなら。
永遠の愛を誓う
20130206