家を飛び出して、柳くんが行きそうなところをしらみつぶしに探していく。
もう学校は閉まってるはずだから、学校にはいないはず。そうなると、いつも行く本屋か文具屋か。もしかしたら街の方かも。
一秒も無駄にしたくなくて、早く柳くんに会いたくて、息をするのを忘れて走った。咳き込みながら走った。


「っ、柳くん!」


そして、やっと見つけた。
予想通りというか、知ってるところをしらみつぶしに回ってただけだけど、柳くんは行きつけの文具屋から出てきたところだった。
ひゅーひゅーと隙間風のような音を喉から出しながら、柳くんを呼ぶ。
すると、確かにぴくりと肩が跳ねた。よかった、聞こえたんだ。

でも、柳くんはこちらを振り返ることなく、歩いていく。
聞こえてるはずなのに、何で?


「柳くん、待って!」


呼んでも振り返ってくれないなら、前に回り込めばいい。
通せんぼをすれば、ようやくその足を止めてくれた。


「…俺に何か用か?」

「私、柳くんに、伝えたいことがあるの」


息を整えながら、なんとか言葉にする。今言わなきゃ、絶対言えないまま終わってしまうと思ったから。そんなの、嫌だ。


「あのね、私…!」

「丸井ではなく、仁王と付き合うことになった、という報告をしに来たのか?」

「え…?」


今まで黙っていた柳くんが私の言葉を遮って言った。何の話?と困惑する暇もなく、次の言葉が柳くんから吐き出される。


「楽しそうに帰っていたな。今日の放課後に丸井が告白すると言っていたので、てっきり丸井と帰ると思っていたのだが…」

「そ、れは…違う、誤解で…!」

「お前は他の女子とは違うと思っていたのだが……俺の目も曇ったものだな」

「だから、違うの!私、ほんとは…」

「丸井から仁王に乗り換えたのだろう?どちらにしろ、俺にはもう関係のないことだ」

「やなぎ、くん…そんな、違うの…」

「もう俺に関わらないでくれるか、苗字」


あまりの衝撃で何も言えなくなっている私をそのままに、柳くんはまた歩き始めた。
その声で、もう、『名前』って呼んでくれないの?
友達としてすらも、柳くんの隣にいられないの?


「…っ、柳くん!!」


溢れる涙を抑えることもできないまま、感情に任せて柳くんを呼んだ。
でも今度はさっきみたいにぴくりとも反応しないまま、まるで聞こえていないように去っていく柳くんの背中を見て、いっそう涙が溢れる。
まさかこんな終わりが待ってるなんて、誰が予想しただろう。本当の気持ちも、ごめんなさいも伝えられないまま、もう話もまともにできないなんて、そんなの…あんまりだ。


「やだよ…こんなの、こんなの…っ!」


嘆いても、喚いても、柳くんは振り向かない。
自分の本当の気持ちを押し殺してふらふらした結果、一番大切なものを失ってしまった。
私はどうすればいい?
もう、わからない。


「…だから言ったじゃろう?」


ぽん、と頭に置かれた手と後ろから聞こえた声。
すぐに誰なのかわかった。
わかった途端、何かが爆発したみたいに、私はその人物に抱きついて、泣いた。


「仁王くん…っ!」




飛べない蝶


20121127
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