「送ってくれてありがとう」
結局、あれだけ怖かった気持ちはどこへやら。楽しく話していると、あっという間に家の前に着いた。
「礼なんて言いなさんな」
「え、でも、楽しかったし…」
「下心があってのことじゃから」
そうだ、と思い出した。
仁王くんは私の血が欲しくてここまで送ってくれたんだ。
私は楽しく話していただけだけど、仁王くんにとったらお腹が空いてそれどころではなかったんだろう。
「あ…ごめん、忘れてた」
「ひどいナリ」
むう、と頬を膨らます仁王くんを、ついつい可愛いと思ってしまった。
だから、つい、口を滑らせてしまう。
「家、上がっていく?」
阿呆だろうお前は、とあの彼なら言うだろうか。
でもこのまま血をあげてさよならをするのは、寂しかった。誰かが傍にいないと、いらないことをうじうじと考えてしまいそうだったから。
「…ええんか?」
「…玄関先で血を飲まれるのは、ご近所に誤解を招きそうだしね」
「それもそうじゃのう」
なんとか仁王くんを誤魔化して、二人で家の中に入った。
お母さんもお父さんも、まだ帰ってない。きっと今日も遅いはず。
両親がいないときに家に異性を入れるなんて初めてで、少しどきどきしながら部屋に行く。
「座ってて。お茶もってくるから」
平静を装って、仁王くんに背を向ける。早く立ち去らないと、心臓の鼓動が仁王くんに聞こえてしまうかもしれないと思ったからだ。
しかしそのまま部屋を出ようとすると、がしりと腕を掴まれた。
「ここにおって」
「え、でも、お客さんだし…ほ、ほら、仁王くんだって喉渇いたでしょ?」
なんとか部屋を出ようとするけど、仁王くんは腕を離してくれない。
それどころか、強い力で腕を引っ張られてしまった。バランスを崩した私は仁王くんの胸に倒れこんだ。
「に、にお、く…」
「…限界じゃ」
私が顔を上げると、余裕のない仁王くんの顔が目に入った。これはやばいと、待って、と言おうと息を吸った時だった。
「名前、」
「え、なま…んっ」
突然名前を呼ばれて戸惑っていると、唇に、温かくて柔らかい感触。
キスされた?なんて思う間もなく、次にやってきたのはちくりとした小さな痛みだった。
ちゅ、と吸われたかと思えば、流れ出る血を一滴たりとも逃さないというように、器用に舌が唇を舐める。
時折、傷口にまた歯を立てられる。そのたびにじんわりとした痛みが全身に広がるようだった。
いつまでそうしていたかわからないけど、やっと、ゆっくりと仁王くんが離れた。
「っ、は…」
「は、ぅ…」
力が入らず、仁王くんに体を預ける。きっと私の顔はりんごよりも真っ赤に染まっているだろう。初めて、だったのになぁ…。なんて、回らない頭でぼんやりと考えていた。
「…こんなご馳走、参謀にもブンちゃんにも渡さんぜよ」
「名前は俺のもんじゃき」
仁王くんが何を言ってるのか聞き取れないまま、私の意識はそこで途切れた。
回らない頭と、止まった思考
20121125