「やな、ぎ…くん…?」


何でここにいるの?とか。あんなこと言ったくせにどうしてこんなことするのよ、とか。
言いたいことはいっぱいあったけど、本当に、本当に嬉しくて。緩む頬をどうすることもできないまま、私は顔を上げた。


「残念じゃったのう、参謀じゃなくて」


そこにいたのは、私が予想していなかった人物だった。
暗い教室に浮かぶ白い髪に、何もかも見透かしたような金色の瞳。
そして、うっすらと開いた唇から見える、柳くんと同じ…鋭い歯。


「仁王くん…っ!」

「参謀にフラれたんじゃろ」


くく、と笑う仁王くんに、苛立ちよりも先に恐怖が湧いた。逃げないと。早く。
そう思うけどしっかりと抱きしめられていて、身動きができない。


「俺が慰めちゃろうか?」

「い、いらない…!」

「そう言わんと」


全く離してくれる気配がない。私が逃げようとすればするほど、仁王くんの腕の力は強まるばかり。
仁王くんは何がしたいんだろう。やっぱり、私の血が欲しいだけ?
それならそれで、もう、いいかもしれない。だって拒む理由がないから。柳くんの特別でいたかったから仁王くんに血をあげるのが嫌だった。でもきっと、仁王くんみたいに、柳くんも他の女の子の血を飲んだりするんだ。なら。


「…そんなに、血が欲しいの?」

「、…欲しいって言ったら、くれるんか?」

「……いいよ」


そう言って笑った私は、ちゃんと笑えていたのかな。

そっと緩まった拘束に、もう逃げる気は起こらなかった。
いつまで待っても来ない痛みに、また顔を上げて仁王くんを見た。


「…帰りんしゃい」

「え…?」

「食欲が失せた。早く帰りんしゃい」

「な、何それ…!」


むっとして仁王くんのブレザーを掴んだ。
食欲が失せた?ふざけるのもいいかげんにしてよ!
そう言ってやるつもりだったのに、口を開く間もなくブレザーを掴んでいた手を掴まれて、次の瞬間には背中に鈍い痛みを感じた。どうやら、勢いよく壁に押し付けられたみたいだ。


「い…っ」

「…帰らんと、襲うぜよ」

「…何なのよ…」

「男のことで泣いとる女から血を吸うんは趣味じゃないんじゃ」


仁王くんはそう言いながら、はぁ、とため息をついた。ため息をつきたいのはこっちよ。


「それに、俺に血を吸われるのは嫌だったんじゃないんか?」

「…必要としてくれるなら、誰でもいい…」

「…ほう?」


にやりと笑った仁王くんに恐怖を感じてないわけじゃない。でも、それ以上に柳くんに必要とされなくなったのがショックだった。だから、私の血を、私を必要としてくれるなら、ブン太くんでも仁王くんでも、もう誰でもいいや。


「なら、苗字は今から俺専用じゃ」

「……いいよ、わかった」


悪魔との契約にも思えるけど、今の私にとったら、ぽっかり空いた心の穴を埋めるために必要な契約。
ブン太くんには、明日ちゃんと謝ろう。本気か遊びかわからないけど、こんな私に興味を持ってくれて嬉しかったな。

どうやって謝ろうか考えていると、仁王くんの顔が目の前に迫っていた。
びっくりして思わず顔をそらしてしまうと、くく、と仁王くんが笑う。そしてそのまま耳元で囁かれた。


「家まで送っていくぜよ」

「い、いいよ、そこまでしてくれなくても…」

「血、くれるんじゃろう?」


そう言われてしまうと、断れない。
気は進まないけど、諦めて仁王くんと一緒に帰ることを承諾して、教室を出た。





悪魔との契約


20121123
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