「苗字も俺のこと好きなんだろぃ?」
「もちろん、付き合うよな!」


頭が混乱して、ブン太くんの言ってることが理解できない。
私のことが好き?誰が?…ブン太くん、が。
きっと以前の私なら、喜んで受け入れたと思う。でも。

「ご、ごめんなさい、私…」

「、あ…悪ぃ。急にこんなこと言われてもびっくりするよな」

「いや、あの、そうじゃなくて…」

「俺、待つからさ。答えはわかってるし」


話が通じない…!
いや、違う。はっきり断れない私が悪い。
柳くんが好きなんだって気づいたんだから、ブン太くんにそれを伝えたらいいのに。


「じゃ、またな」

「あっ、ま、待って…!」


ぐるぐると頭の中で考えているうちに、ブン太くんは教室を出ようと私に背を向けた。今言わないと、きっと言えなくなる。わかってるのに伸ばした手はブン太くんには届かない。
夕日の差し込み始めた、しんと静まり返った教室で、ひとり。


「…どうしよう…」


じんわりと目頭が熱くなってくる。はっきり言えない自分が情けない。柳くんが好きなくせに、心のどこかではブン太くんへの気持ちも残ってるんだ。憧れなのか好きなのかわからなくても、ずっとずっと大切な人だったから…。


「だめだなぁ、私」


つぶやいた言葉は誰に聞こえるでもなく、それに対しての返事なんて返ってくるはずもない。それがどうしようもなく切なくて、寂しくて。


「…っ」


涙が、とまらない。
私ってこんなに弱かったんだ。なんて。
冷静に自分を見つめてみるふりをして、結局どうしたらいいかわからなくなって泣くだけ。まるで、幼い子どもみたい。

そうして俯いて涙を拭っていると、足元に影が差した。
誰。そう言おうとしたが声が出ない。
仕方なく影の主を見ようと顔を上げようとしたけど、それは叶わなかった。


「泣くな」


ふいに聞こえた声と一緒に、私の体を抱きしめた腕。
目の前にブレザーの青が広がる。


「やな、ぎ…くん…?」



弱くて、弱い
ああ、また涙が出てきたよ



20121121
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