結局あれから眠れず、気づけば朝になっていた。徹夜しちゃったなぁ、とぼんやり考えながら学校に行くために起き上がる。

ふと携帯を見れば、新着メール一件、と表示されていた。
もしかしたら、なんて淡い期待を抱きながらメールを開いた。でもそこにあった差出人の名前は、私の期待とは外れたもので。


「…どうして…」


そこにあったのは、私がずっと好きだった人の名前。ううん、ずっと憧れてたのかもしれない。私にはない、その人懐っこさに。


「…ブン太くん…」


以前の私なら、きっと跳び跳ねるくらい嬉しかったはずだ。柳くんのおかげで見ていることしかできなかった彼のアドレスを手に入れたものの、ずっと自分からは連絡できずにいたんだから。


― 今日の放課後、話があるから教室で待っててくれ。


何の話だろう。
純粋にそう思った。それと同時に、これが柳くんだったら…なんて。
もう話すこともないかもしれないのに、考えることは柳くんのことばかり。
きっと、ずっと前から惹かれてた。今さら気づいたって遅いのに。


「…学校行こう」


考えてたって仕方がない。
とりあえず学校に行かないと。






覚悟はしてたけど。
同じクラスなんだから、会うことくらいわかってた。


「…おはよう、名前」

「や、柳くん…おはよう…」


気まずい。とてつもなく気まずい。
昨日一方的すぎたことも自覚はあるし、何より柳くんのことが好きなんだと気づいたばかり。
どんな顔をして彼に会えばいいのか、徹夜明けのぼけた頭では到底わからない。


「…昨日のことだが」


ああ、きた。
何て言い訳したらいいんだろう。ぼんやりとそんなことを思った。
でも、彼の口から飛び出した言葉は全く予想のつかない言葉だった。


「今まで、すまなかったな」

「…え?」

「丸井を好いているのを知っていながら、あんなことに協力させてしまった」


違うの。
そう言えたらどんなに良かったか。
最初は怖かったけど、今は違う。餌場になるのは嫌だけど、柳くんが望むなら、血なんていくらだってあげてもいいと思ってる。


「い、いいの…別に」

「名前は優しいからな。今ならまだ、丸井に知られていないだろう」


大丈夫だ、と優しく微笑んだ柳くんを見て、ずきりと胸が痛んだ。

違うの、柳くん。
私、やっと自分の想いに気づいたんだよ。
あなたが好きなの。


「…応援、しているぞ」



優しさも凶器
いっそ怒ってくれたら良かったのに


20120408

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