いつの間にか気を失っていたようで、目が覚めたときはもう外はうっすらと赤く染まっていた。午後の授業も全部サボってしまったのか…。今更後悔しても後の祭り。柳くんがあんなことするからいけないんだ。
そうやって柳くんに罪をなすりつけようとするが、誰もそんなことは聞いていない。柳くんはもちろん、先生すらもいないのだ。まったく、どこへ行っているのやら。

まぁ、いつまでもここにいるわけにはいかない。下校時間はとっくに過ぎているようだし、早く校舎から出ないと。
そう思って、ゆっくりとベッドから降りる。
夜の学校も怖いけど、夕方の学校も充分に怖い。窓から差し込む夕日が、なんとも言えない不気味さを引き出している。


「…柳くん、起こしてくれれば良かったのに…」


そんなこと言っても、やっぱりどうにもならない。とにかく、一刻も早く校舎から出たかった。幸い荷物も全部ここにある。
私は鞄を肩にかけて、保健室を出た。


空き教室の前を通りかかったときだった。何やら話し声が聞こえるのだ。とは言っても、電気はついていないし、戸も閉まっているから、何を話しているかという内容までは把握できない。
好奇心には勝てず、そっと戸に耳を近づけた。


「お前さん、不味いんじゃ」

「で、でも…昨日はそんなこと言ってなかったのに…」

「しつこい女は嫌いぜよ。俺はもうお前さんの血を吸う気にはなれん。」


聞いたことのある声に、独特の話し方。こんな話し方をするのは、一人しかいない。しかし何か揉めているようである。不味いとか、血とか…。それだけでなんとなく内容がわかってしまった私は、そそくさと退散した。

内心ひやひやしながら靴箱まで辿り着いたときには、もう外が薄暗くなってきていた。怖さは増しているものの、さっきの会話を思い出せば暗さなんてどうでもよくなる。
思い出せば出すほど、浮かんでくる考え。

― 私もいつか、柳くんに突き放されるのだろうか。

別に、柳くんに必要とされたいわけじゃない。私には好きな人がいて、柳くんはただ相談に乗ってくれていただけの友達。
だけど、もし。もしも、さっきの仁王くんと同じことを柳くんに言われたら?
きっと私は、泣いてしまう。


「…あんなの、ひどすぎるよ」


返ってこないのはわかっていた。それでも言葉に出してしまったのは、この不安を消してしまいたかったからかもしれない。


「やっぱり、聞いとったんか」


そのはずなのに。私の予想に反して『声』は返ってきた。それが柳くんや他の人であったなら、どんなに良かったか。


「に、仁王くん…」

「まさか苗字に盗み聞きされるとはのう。予想外じゃった」

「別に、そんなつもりは…なくて…」


ほんの好奇心が、こんな結果を招くなんて…。私は運が無いのだろうか。
どうしても仁王くんの顔を直視できず、目をそらしてしまう。鋭い仁王くんはそれに気づいたみたいで、私を放って話を進めた。


「血なんて、どれも同じ。ずっとそう思っとった。だが…ある女の血を飲んだら、もう他の奴じゃあ満足できんなった」

「…勝手だね」

「まあそう言いなさんな」


そう言うな、というほうが無理だ。そりゃあ、気持ちはわからなくもないかもしれないけど、それじゃあさっきの女の子が報われない。どうしても、自分に重ねてしまう。


「…あの女の子の気持ちも、考えてあげてよ。どんな気持ちで、今まで仁王くんに血をあげてきたのか……。いくらなんでも、ひどすぎるよ」

「…俺は、苗字がいればそれでいいんじゃ」

「………え?」
思わず耳を疑った。私がいればいい…?
その意味はすぐにわかった。嫌だ、と頭の中を何度も言葉が巡る。逃げなきゃ。私の本能がそう告げていた。


「苗字を参謀が気に入った理由がわかった。この味を知ったら、もう他の血が飲めなくなる」

「だから、苗字」

「俺に、血をくれんかのう」


その目は、昼間とは違う…獣の目だった。


最悪のシナリオ

20110729
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -