「空気読んでよね!!あぁもう、私の乙女心を返して…」
「もう昼休みが始まって10分が過ぎたぞ。腹も減るだろう」
「だからってあの空気の中で言わなくても…」
ぎゃーぎゃーと言い争い(と言えるのだろうか)をしているものの、別に何かを期待していたわけではない。
もしも相手が私の好きな人だったなら、告白なら良いのにと期待したんだろうけど。
柳くんは、友達だから。
きっと、雰囲気に流されただけ。
「名前」
また名前を呼ばれた。
何?と短く返事をするつもりで口を開いたが、それは声にならなかった。
品のいい香の香りが、ふわりと漂った。
「や、柳くん…ちょっと待って…っ」
「もう待てない」
さっきまで寝ていたベッドに、いとも簡単に押し倒された。
正面に見えるのは天井と、私に跨っているであろう柳くんの顔。
「柳く…怖い、やだ…」
柄にもなく、泣きそうになってしまう。
吸血のときの何とも形容しがたいふわふわとした感覚が、嫌で仕方ないのだ。
まるで自分が自分でなくなってしまうような…そんな感覚。
「…、諦めろ」
―…お前は俺から逃げられはしない。
脳に直接響くような甘く、低い声がしたのを機に視界から柳くんが消え、代わりにあの感覚が私を襲ったのだった。
ただ、ひとつだけ違っていたのは、うるさく音を立てる私の心臓。
麻痺する思考と想い
20110614