「おはよう」
「…え、」
朝、玄関の戸を開けたら、柳くんがいました。
あれ、おかしいな。
幻覚か。幻覚なのか。
でも目をごしごしと擦ってみても、やっぱりそこにいるのは紛れもなく柳蓮二である。
「ほら、早く行くぞ」
柳くんは、もたもた(わたわたとも言う)していた私の手を掴み、ぐいぐいと引っ張る。
でもその手はやけに冷たくて、やっぱり柳くんは人間じゃないのかもしれないって思ってしまった。
「…名前」
「え、な…何?」
柳くんが、急に立ち止まった。
こちらを見ずに私の名前を呼ぶ。
考えていたことが考えていたことだけに、あからさまに声がうわずった。
「…すまない。もう我慢できないんだ」
何を?
そう口を動かして声を発する暇もなく、私は柳くんによって近くの路地裏に引っ張り込まれてしまった。
「や、柳くん…?」
恐る恐る見た柳くんの顔はとても辛そうで。
昨日のような恥ずかしい行為が行われようとしているのに、嫌だ、とは言えなかった。
だって、柳くんにとってはただの朝ご飯なんだから。
ちくり、と
(胸が痛んだのは)
(きっと気のせい)
20110317