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「名前、話がある」
「はい、真田様」
私がいなくなってすぐ、真田が名前様のお部屋にやって来ました。どこか不機嫌さを感じさせる彼は、にこにこと微笑む名前様の正面に座りました。そして、真っ直ぐに名前様を見つめて、とんでもないことを口にしたのです。
「あの柳とかいう兵を、愛しているのか?」
その瞬間、にこにこと微笑んでいた名前様の顔が引きつりました。さぁ、と血の気が引いていく名前様の様子を見て、真田は確信したのです。自分が見たものは夢でも何でもなく、現実のものであったことを。
「これを父上に話せば、あの兵はどうなるであろうな」
「っ真田様!柳様は、何も悪くないのです…!」
「一般兵が姫君に手を出したとなれば、死罪は免れんだろう」
「真田様…っ」
いつもにこにこと微笑んでいた名前様が、初めてお顔を歪まされました。今にも泣きそうになりながらも、必死に私の命をお助けくださろうとして真田にしがみつきました。
そんな名前様に真田は優しく微笑みかけました。そうして名前様の頭をそっと撫でながら、悪魔のような言葉を口にしたのです。
「黙っていてやってもいいが、条件がある」
「…名前にできることならば…」
「俺と結婚しろ、名前」
名前様が絶対に断れないとわかっていながら。名前様の恋心を利用してまでも、手に入れたかったのでありましょう。
名前様は「はい」と頷くしかありませんでした。
私に相談することもできず、全てを一人で抱え込んでしまわれたのです。
私が知らない間に、真田と名前様の祝言の準備は着々と進められていきました。名前様が私を守るために、兵たちには内緒にするようにとお父上に頼まれたのです。私が知れば、黙っていることはできなかったでしょう。それを名前様はわかっておられたのです。