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「失礼致します」
「、柳様」
名前様はとても美しく、又とてもお優しい心の持ち主でした。兵の中にも名前様に心を寄せている者は何人もいましたが、とても下っ端の兵などが手を出していいような存在ではありませんでした。しかし、名前様は数ある兵の中でも歳の近い私のことを気にかけてくださり、あろうことか。
私を、愛してくださったのです。
「様付けなどお止めください。私など、身分の低いただの使い捨ての駒なのですから」
「まぁ…、そんなことおっしゃらないでください。名前は柳様がいなければ、もう生きていけません」
「名前様…」
この手に抱いて、汚してしまいたいと思うことはありました。しかし、名前様を大切に想う心の方が強く、私のようなものが欲に任せて汚してしまってはいけないと。名前様のお父上、つまり私のお使えする殿に認めていただいてからと思っておりました。
「いつか、私と共に生きてくださりませんか?」
「…はい、柳様」
誰の言葉にもなびかなかった名前様が、私の言葉には頬を染めてくださっている。それだけで天にも昇るような気持ちでした。
しかし同時に、いつかこの幸せが崩れてしまうのではという不安も拭うことができずにいたのです。あの真田が、名前様を諦めるはずがない、と。
その日も、私は名前様と密かにお会いしておりました。
この手に抱くことはできずとも、ずっと名前様だけをお慕いしていたのですから、ただこうして名前様に触れていただけるだけで。私の許されない独占欲が満たされていきました。
「名前様、そろそろ真田様がいらっしゃるお時間では…」
「、まぁ…もうそんな時間なのね…」
「っ、名前…!」
誰にも渡したくない。決して許されることのない恋だとはわかっているつもりではありましたが、私だけの名前様を汚されたくなかったのです。たとえそれが作り笑いでも、私以外に微笑みかけていただきたくはなかったのです。
口には出せない、出してはいけない想いを乗せて、私は名前様を強く抱きしめました。着ている着物の上からでも、名前様の体の線がわかるような気がして、どきどきと心臓が鳴るのを感じていました。
「…れんじ、様…」
「愛しております、名前様。誰にも貴女を渡したくない。私だけを…、俺だけを見ていてくれ…」
「…私も、お慕いしております。きっと、一目見たときから、ずっと。名前には蓮二様しかおりません」
愛しい。この人が、とても。
いけないことだとはわかっておりましたが、この想い自体が許されないものであるなら。そう思い、この日初めて名前様と口付けを交わしたのです。
しかし。
「、名前…あのような者を、愛しているというのか…!」
私と名前様を真田が見ているとは、予想できませんでした。
いえ、容易に予想できたのです。この城にいる参謀よりもずっと優れているとお館様に言われた私の予測能力。しかし、恋に溺れた私の頭は、正常には働いてくれなかったのです。