あるところに、それはそれは美しいお姫様がおりました。
その姫の美しさに魅せられた各国の権力者が姫を手に入れようとしましたが、どんなことしても姫は首を縦には振りませんでした。
そして、父も娘を可愛がり、無理矢理結婚させようなどとはしなかったのです。

しかし、同盟国の次期当主である真田はどうしても姫を手に入れたいと思っていました。そのために元服しても妻を娶ろうとはしませんでした。そして、毎日のように姫に会いに来るのです。


「名前!」

「まぁ、真田様ではございませんか」

「名前…、俺のことは弦一郎と呼べと何度も言っているだろう」


申し訳ありません、と小さく笑う姫は誰しもが見惚れてしまうくらい美しかった。
その笑顔を自分だけのものにしたい。真田はずっとそう思っていたのです。
昔から、ずっと。彼女だけを見てきたのです。


「…名前、これを」

「まぁ…、何故これを私に?」


真田が姫に渡したものは、綺麗な貝殻で作られた指輪のようなものでした。
それを見た姫は嬉しそうに目を細め、真田に尋ねます。


「うむ。…俺と結婚してくれないだろうか」


真田が真っ直ぐ姫を見つめてそう言えば、姫はゆっくりと首を横に振りました。


「…申し訳ありません。私は、どなたとも結婚する気はございません」


いつものように断られてしまった真田は、いつものように「そうか」と一言返すとそのまま去っていってしまいました。

真田は知っていたのです。姫の心の中には、すでに姫自身が選んだ殿方がいることに。
どこの権力者なのかまではわからなかった彼ですが、負けるわけにはいかなかったのです。
幼い頃よりずっと愛し続けてきた名前様を、簡単に他の男になど渡せない。そうお思いだったのでしょう。

まさか、私のような下っ端の兵が、名前様と愛し合っているとも知らずに。
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