名前を探す。それは思っていた以上に難しいことだった。
この広い校舎の中、それも限られた時間の中でたった一人の人間を探すことを甘く見ていた。データがあれば、弦一郎のように簡単に見つけられたかもしれない。
しかし彼女のデータを持っていない俺は、名前が普段どこにいて何をしていることが多いのか全くわからない。知っていることといえば、教室にいることが多かったこと。
教室以外だとすると、屋上だろうか。
屋上にもいないとすれば、教室に戻っているのか。それとも別の教室なのか。
そうしてやっと彼女を見つけたのは、昼休みが終わる5分前だった。
「まさかテニス部の部室にいるとは思わなかったぞ」
「、や…柳」
声をかければ、びくりと名前の肩が跳ねた。
何故名前が部室に入れているのか。
何の用でここに来ていたのか。
そんなこと、今はどうでも良かった。
「何故、俺を避ける」
「別に、避けてるわけじゃ…」
「……本当に、そうか?」
眉尻を下げながらそう言えば、名前が俺から顔を背けた。
やはり避けていたのか。
「俺は、お前に何かしてしまったのだろうか」
彼女は首を横に振る。
俺はゆっくりと近づいた。俯いている名前をそっと抱きしめると、小さな体がぴくんと揺れる。
「…俺は、お前が好きだ」
口から勝手に言葉が漏れた。それに気づいた後、すぐに後悔が押し寄せる。
まだ伝えるつもりはなかった。想いを告げて、名前と両想いになれる確率は、いったい何パーセントなのだろうな。
その確率を導き出すことさえ出来ない俺は、ただの臆病者だ。
「柳…それ、本当…?」
「…俺は、冗談は嫌いだ」
冗談などでこんなことは言えない。
そう言うと名前の目から涙が溢れた。その涙の意味がわからなかった俺はどうして良いかわからず、腕の中にあった名前の急いで解放した。
しかし、すぐに小さな衝撃があった。名前に抱きつかれたのだと軽く混乱している頭で必死に理解しようとしていると、今にも消え入りそうな愛しい声が聞こえた。
「私も…私も柳が好き」
確かに愛を知った日曜日
「ならどうして避けたりしたんだ」
「だ、だって…意識しちゃうとなんだか恥ずかしくて」
「…弦一郎と二人きりで会っていたのは?」
「相談に乗ってもらってたの。柳のこと、少しでも多く知りたくて」
「……だからと言って男と二人きりで会うな。心配した」
(抱きしめた体は、とても愛おしく…とても温かかった)
2011,1.10