『嘘だ』
頭の中で、その言葉だけがぐるぐると回っている。
あの弦一郎が部室に女性を招き入れるなど、天変地異の前触れではないのか。しかし仁王がそんなわかりやすい嘘をつくとも思えない。
これは本人に直接訊く必要がある。
そう考えた俺は、迷わず弦一郎の元へ向かった。
「弦一郎」
「む、蓮二か」
案の定、図書室にいた。
弦一郎は、雨の日の昼休みは教室より図書室にいる確率の方が高かったからな。
だが今はそんなことはどうでもいい。
真っ直ぐに歩いていくと何かを悟ったのか弦一郎は後ずさったが、俺は気にせず距離を詰めた。
「…昨日、部室に部員以外を招き入れたか?」
まどろっこしいのは止めにして、早く答えがほしかった。だからと言って個人の名前を出すわけにもいかず、ある程度オブラートに包む。
弦一郎の顔が、一瞬にして強張った。
わかりやすい奴だ。
「…その反応、やはりそうか」
まだ名前と決まったわけではない。
落ち着け、と自分に言い聞かせるが心臓も頭もなかなか落ち着いてくれない。
「…何をしていたんだ?」
「そ、それは…言えん」
予想した通りの答え。寸分も狂いもなかった。
しかし、今はその正確さすらも嫌になる。
「俺ではなく、本人に聞けばいいだろう。…見ていたのだろう、蓮二」
弦一郎の言葉に思わず開眼しそうになった。何故こいつはこんなところで鋭いのだろうか。いつもはかなり鈍いくせに…。
「…正確には仁王が、だ」
それに、少しずれている。
こいつはそういう男だったと思いながら、俺は弦一郎に別れを告げて図書室を出た。
名前が何故弦一郎に相談していたのか。
何故俺を避けるようになったのか。
全てを知るために、名前に会いに行く。
雨が止んだ土曜日
相変わらず外は雨が降っている。しかし、俺にはまるで、雨が止んだかのように見えた。
20101207
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