もし、名前も俺のことを想っていてくれたとしたら…どうだろう。
可能性は0ではないはずだ。…しかし、確信は持てない。
原因は、名前に関してのデータが少なすぎるということだ。本人から少しずつ聞き出すのが精一杯で、核心に迫るようなことは聞けない。

名前との『もしも』を考えていた俺は小さくため息をついた。
参謀ともあろうものが、何をやっているんだ。


「柳先輩、どうかしたんスか?」


聞き慣れた後輩の声で我に返った。
今は部活中だったな、と頭の中で状況を整理する。
どうかしたのかと問われたのだから何か答えなければならないのだが、なんと答えて良いかわからない。とりあえず、何か言わなくては。


「…赤也か」


素っ気ない言葉が出てしまった。
いや、だがいつもと変わらない声色だったはずだ。……気を悪くしていなければいいが。

そう思って赤也の様子をうかがっていた俺だが、次の瞬間冷や汗をかくことになる。


「…名前先輩じゃなくて悪かったっスね」

「……、何のことだ」


ふてくされている。
それはまだ分かる。だが…何故そこで名前の名前が出てくるんだ。


「どうせ名前先輩のこと考えてたんでしょ」


違う、と否定の言葉が出てこなかった。かと言って肯定したわけでもないが…。
しかし、まさか赤也に気づかれていたとは知らなかったな。


「それより赤也。いつから名字のことを名前で呼ぶようになったんだ?」

「え、いや、その…」


明日からの練習メニューを考え直さなくてはいけないな。


笑ってそう言えば、赤也の悲鳴がテニスコートに響いた。



もしもに夢見る水曜日
「柳、早く行動に移した方がいいんじゃないのかい?」
「…精市も気づいていたのか」
「ふふ。さぁ…、どうだろうね」



2010,10.8
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