生まれて初めて、授業をさぼった。
深い意味はなく、ただどんな気分なのか味わってみたかっただけ。
先生や弦一郎に怒られるだろうかと少しドキドキしている今の自分を見たら、名前は情けないと思うのだろうか。
しん、と静まり返った屋上の真ん中で、1人考えることは名前のことで。
いくら俺が彼女を想っても気持ちは伝わらないのに、想いは募るばかり。
フッ、と小さく自嘲の笑みを浮かべて呟いた。
「…情けないな」
「誰が?」
聞き覚えのある声に、びく、と肩が跳ねた。ここには俺しかいないはずだが、確かに今誰かが答えた。
……、幻聴じゃない。
勢い良く起き上がり辺りを見回せば、隣で名前が笑っていた。
「……何をしている、名字」
「こっちの台詞。優等生の柳くんが、さぼり?」
クスクスと笑う彼女に、心臓が音を立てる。なんだか少し、恥ずかしい。
咄嗟に、何か言わなくては、と思うが頭が上手く回らない。
「…たまには、仁王や赤也みたいになりたかっただけだ。気持ちを知るというのも、データ収集の一つだからな」
言い終わった後に、しまった、と思った。
まるで仁王や赤也のせいにしているような言い方になってしまった。
優しい彼女は、俺のことを怒るだろうか。
「んー…、確かに。その2人と柳じゃ、タイプが違うもんね」
予想に反して明るく笑う名前。
ああ、そうだ。彼女はこういう人間だった。
俺は、俺にはない柔らかな考え方に、興味を持ったんだ。
名前と初めて話したときのことを思い出して小さく笑った。
今思えば、一目惚れに近いものだったのかもしれないな。
「仁王や赤也とタイプが違う俺は、嫌いか?」
そう問いかけると、彼女は首を横に振った。
「ううん。そんなことないよ」
好き、と言わないところが名前らしい。
だが、嫌いではないというそれだけで嬉しく思ってしまう。
それ以上は追求しない。好きかどうかなんて、今はまだ知らなくて構わない。
嫌われていないだけで、満足だ。
「ちょっと寝よっか」
「ああ、そうだな」
太陽に抱かれて眠る火曜日
「だが名字、さぼりはいけないな」
「柳こそ」
「…今日だけだ」
(たまにはいいな、こういうのも)
2010,10.3