「おはよう。早いな」
「あ、おはよう!」
朝、靴箱のところで靴を履き替えている名前を見つけて声をかけた。
女子に話しかけることなど滅多にしないが、こんなチャンスを逃すほど俺は初心(うぶ)ではない。
「今日、日直なんだ」
「…あぁ、そうだったな」
忘れていた。否、知らなかった。
やはりデータを集めておくべきだったのか。
しかし、データを集めていることが名前にバレては元も子もない。そう考えるとリスクは少ない方がいい。
「柳は朝練ないの?」
「ああ。今日は、な」
「へぇ」
興味なさそうに声を発した彼女に、少しだけ心が痛む。彼女にとってはどうでもいいことなんだと思い知らされるようで。
だが、流石に精市の気まぐれとは言えない。
……弦一郎が委員会でいないということも深く関わっているが、言う必要はないだろう。
「なら、暇だよね!」
少しの沈黙の後、名前は俯かせていた顔を上げ、自分よりも遥かに背が高い俺を見上げた。
その顔は心なしか明るいように思える。
「日直の仕事、手伝ってくれない?」
にこにこと笑顔を浮かべている名前に、平然を装い「構わない」と返したが実際は心臓が止まりそうになるくらい動揺していた。
俺の気持ちを知っていての計算か、それともただ単に俺がここにいるから頼んだだけなのか。
どちらであれ、嬉しいことに変わりはない。
だが一方で、俺よりも先に誰かが名前に話しかけていたらと思うと胸が痛んだ。
「柳、大丈夫?」
「…問題ない。行こうか」
また一週間が始まる。
いつもと変わらない一週間の始まりがこれだけで特別になってしまう俺は、相当名前にやられていると思う。
曖昧で始まる月曜日
(彼女の気持ちが)(知りたい)
2010.10/1