私は今、人生最大とも言える困難に直面している。

大好きな人の生まれた日だから、何かお祝いがしたくて。
考えたのが、放課後、彼の靴箱にプレゼントとカードをそっと入れておくってことだった。

仲がいいわけでもなく、たまに話す程度。
そんな私からいきなりプレゼントを貰ったら、いくら鈍いと噂の真田くんでも気づくと思ったから。
名前は書かずに、イニシャルで。

我ながらナイスアイデアだった。
…なんてことを言っている場合じゃない。

今、登校してきた私の目の前で行われているのは…。


「も、持ち物検査…」


でかでかと書かれている看板を遠目から見る。
何度見ても文字が変わるはずもない。

理由を話せばわかってもらえるんだろうけど、あそこにいるのは紛れもない、真田弦一郎その人である。

私だとわからないようにプレゼントしようと思っていたのに、ここでバレたら意味がない!

どうせ捕まって事情を話すなら、真田くんと同じ風紀委員の柳生くんのほうがいいや。

そう思って柳生くんの列に並んだ。






…のだが。
一向に前に進まない。

そういえば柳生くん、テニス部だっけ。
心なしかこの列、女子の割合が高い気がする。
真田くんの列は男子が多いから、少し安心した。

ああもう早くしてくれ…!!
絶対どこかにいるであろう恋のライバルたちに先を越されてしまう前に、なんとかしなくては。
いっそ放課後なんて言わず、このままの勢いで靴箱に押し込んでやろうか。


やきもきしていると、やっと私の番がきたみたいで、前にいた女の子が玄関の方に歩いていった。
ちょっと安心して、用意されている机に鞄を置き、何気なく前を見れば、


「……何で、真田くんなの?」


あんたは向こうの列じゃなかったのか…!!
呆然としていると「大丈夫か?」と声がかかった。


「真田くん、向こうの列の担当じゃなかったの…?」

「そのはずだったのだが、柳生の方があまりにも時間がかかっていたのでな」


つまり、手伝いに来たというわけか。
何これタイミング悪すぎる。


「…む、神咲」

「え、何?」

「この袋は何だ」


やっぱり無難にペンとか時計とか、そんなものにするべきだったか。
今更、後悔しても遅い。

両手の手のひらに乗るくらいの、小さな袋。その中に入っているのは、袋より少し小さい、テディベアのぬいぐるみ。

目の前の真田くんを見て、チョイスを間違ったかもしれないと思うのはきっと私だけじゃない。


「…誰かへのプレゼントか?」

「え、あ……う、うん。そうなの」

「……そうか」


袋をまじまじと見つめていた真田くんが、私に訊いてきた。
バレてないようで、少し安心した。


「…、行っていいぞ」


点検を終えた真田くんが、荷物を渡してくれる。
その荷物の中には、袋もちゃんとあった。


「ありがとう、真田くん」

「いや…。…神咲の気持ちが、伝わると良いな」


小さく微笑み、そう言ってくれた真田くんに、胸がきゅう、と締め付けられた。
真田くんはこれを渡す相手が、自分だと知ったらどう思うだろうか。

迷惑だろうなぁ、なんて悲観的に考えながら、私は玄関に急いだ。
彼はまだ持ち物検査をしているだろうから、今の内に、早く。




そうして、プレゼントとカードを見て全てを把握した彼が私の教室に飛び込んでくるのは、そう遠くない先のお話。




抜き打ち持ち物検査
『お誕生日おめでとう。ずっと貴方が好きでした』



2011,5.21
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
おめでとう、真田!


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