見てしまった。
絶対見間違いじゃない。
蓮二が、他の女の子と、
「…キス…?」
口に出して、事実を認めてしまった気がした。
そんなわけないと頭で否定したって、実際に目の前でそれが起こっているわけで。
蓮二は、私と、付き合ってるのに。
「っ、待て、真理…これは…!」
私に気づいた蓮二が、慌てて女の子から離れた。
私より小さくて、可愛らしい女の子。
蓮二と並んでも違和感がない、女の子。
気がつけば私は、蓮二の静止の言葉も聞かずに走り出していた。
身長差なんて、埋まらなければ良かったのに。
蓮二よりずっと小さかったら、きっと…。
そうやって、どれだけの距離を、どれだけの時間走っていたのか。
突然、がしりと腕を捕まれた。
驚いて振り返ればそこにいたのは、汗にまみれ髪がボサボサになっている愛しい彼で。
「待て、と…言っただろう」
探してくれたんだ。
いつもの蓮二じゃない、乱れた姿を見たときにそう思った。
蓮二は私より足が速いから、すぐに捕まえられたはずなのに…どうしてここまで汗だくなんだろう。
そんなことを考えていたら、ふいに視界から蓮二が消えた。
「…誤解だ、真理」
ああ、抱きしめられたんだ。
頭の少し上から降ってくる蓮二の声に、まるで他人事のようにそう思った。
「俺が愛しているのは、真理だけだ」
ぎゅ、と腕に力が込められる。
ちょっとだけ、痛い。
「……前も、そうだった」
やっと私が発した言葉に、蓮二の体が小さく揺れた。
「前も同じこと言ってた。私だけだって。…これで何回目?」
蓮二が女の子とキスしてるのを見るのは今日が初めてじゃなかった。
三回目…いや、四回目だったかな。
私に見つかる度に、蓮二は同じことを言う。
『愛しているのは真理だけだ』
いつからだろう。
その言葉が信じられなくなったのは。
愛しているって、何?
「私がでかいから、嫌なんでしょ。だから何回も浮気するんでしょ?」
もう疲れたの。
そう言って蓮二から離れた。
どんな顔してるんだろう、と蓮二を見れば、予想外にも泣きそうな顔をしていて決心が揺らいでしまう。
別れる、つもりだったのに…。
「すまない、もう絶対しないから」
だから、捨てないでくれ。
また抱きしめられ、耳元でそう囁かれた。
その声はいつもみたいに甘い声じゃなくて、切なくて、今にも泣きそうに…震えてる。
「…次したら、別れるからね」
そしてまた私は、同じ過ちを繰り返すんだろう。
うそつき
(好きでもない女に愛を囁くのは)
(お前を嫉妬で黒く染めたいから)
20120406
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
悪い参謀が書きたかったんです。
背が高いという彼女のコンプレックスにつけ込んで、わざと背の低い子と浮気をする。
嫉妬で黒く染まる彼女が大好きな参謀でした。
一種の狂んだ愛だと思っていただければ…!