※生まれ変わり
※微死ネタ表現
※柳や幸村たちは中2設定
「真理がさ、俺のことお兄ちゃんだってわかるみたいなんだ」
そうやって嬉しそうに話す精市を見ていると、将来とんでもないシスコンになりそうで自然と苦笑いを浮かべてしまう。
この前生まれた妹が可愛くて仕方ないようだ。
こんな一面があったとは知らなかった。データ不足か。
そう思ってなんとなく空を見上げた。
「…あ、ごめん」
突然の謝罪に驚き精市を見れば、俺の苦笑いの意味を取り違えたのか眉尻を下げて申し訳なさそうにしていた。
「…真理さんのことなら、気にする必要はないと言ったはずだが?」
精市の妹と同じ名前の、俺の愛していた人。
神奈川に引っ越してきてから知り合ったお隣さんで、高校生だった。
……そして、一年前の春。俺が立海大付属中に入学すると同時に亡くなった。
精市は同じ名前の妹の話をしたことで、俺が彼女のことを思い出したと思ったらしい。
「今日、真理に会いに来なよ」
突然の精市の提案に思わず目を見開く。
実を言うと、俺はまだ妹には会ったことがない。これだけ精市が溺愛している真理を見てみたいとは思っていたが、今まで機会がなかったのだ。
「行かせてもらおう」
そしてその足で、精市の家に向かった。
久しぶりに精市の家に来た。最後に来たときと何も変わっていない。
変わったことといえば、俺のまだ見ぬ新しい家族がいるということ。
「真理、ただいま」
精市は靴を脱いで、すぐ横の部屋に入った。俺もそれについていく。
おそらくここに『真理』がいるのだろう。
部屋に入ってすぐ、精市が赤ん坊を抱いている光景が目に入った。
中学生のはずなのに赤ん坊を抱いていても全く違和感がないことに少し違和感を覚えつつ、精市に近づく。
「ほら、可愛いだろ」
そう言って見せてもらった真理は、どこか懐かしい気がした。
いや、気のせいだ。精市の妹には初めて会ったのだから。
それに、赤ん坊なんて家族以外にはみんな似たように見えるものだ。寝ているから尚更そう感じただけなんだろう。
そうして暫く寝顔を見ていたが、ふと右手は開いているのに左手は固く握り締めていることに気がついた。
「……何か、握っているのか?」
そう訊けば、精市も不思議そうに話し始めた。
「わからないんだ。生まれたときからずっと、こっちの手だけ握り締めて開こうとしないんだよね」
しかし体に異常はないらしく、家族全員が不思議に思っているとのことだった。
俺はそれがひどく気になり、そっと固く握られている左手に触れた。
触れた瞬間、今まで閉じられていた目がぱちりと開き、俺がそのことに驚いていると真理の丸い瞳が俺の姿を捉えた。
泣かれるのではないかと焦りを感じたそのとき、
「…あー」
真理が小さく笑った気がした。
不思議に思い真理を見つめていると、俺が触れている固く握られていた左手が、ゆっくりと開いた。
そこにあったものを見て、俺は息が止まりそうになった。否、止まっていただろう。
何故ならばそこにあったものは、
「…指輪?」
俺が驚いて動きを止めている間に、精市はその指輪を真理の手から取り上げようと手を伸ばしていた。
しかし、真理はまた素早く指輪を掌に閉じ込める。
「…真理…さん?」
口から勝手に愛しい人の名前が零れた。
ありえないと思いながらも、俺が閉じられた左手に触れると呆気ないくらいあっさりと真理は力を抜いた。
そっと手の中にある指輪を取り裏側を見れば、俺が愛しい彼女に贈った初めてのプレゼントである証が、そこに彫られていた。
だって貴方に会いたかったから
「真理さん、なのか…?」
(そう問えば、精市の腕の中の真理は嬉しそうに笑った)
(あいたかったよ、れんじ)
2011,1.14
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唐突に書きたくなった設定。
続けたいけど需要なさそうなので短編に。