だだだだだ、という音が響く。廊下を誰かが走っているのだろう。
いや、誰か、なんて曖昧ではないな。真理が今日の放課後、俺の教室へ走ってくる確率は98%なのだから。
「柳ィィイ!!勝負だ!」
ほら、来た。
よくもまぁ息を乱す様子もなく、A組からここまで走ってこれたものだな。その体力には毎度感心させられる。
真理は席について読書をしていた俺の前に、ズカズカと歩いてくる。お前は鬼か何かか、と言いたくなるほどの勢いだ。(もちろん顔も女子にはあるまじきものになっているが)
「五教科合計、460!」
「…ほう、今回は頑張ったんだな」
定期テストの度に、真理は俺と点数を競う。別に俺は『やる』と言った覚えもないのだが、いつの間にかこれが当たり前になっていた。
慣れとは怖いものだな。
「ほら、柳は何点だったのさ!」
「496だ」
「…………は?」
「聞こえなかったのか?496だ」
聞こえているのはわかっている。
ただ、唖然としているこいつを見ると面白くてつい、いじめたくなった。
わざと点数を強調してやる。
「それ…ほぼ全部満点じゃん…」
「少しケアレスミスがあってな」
というのは嘘だが。
別にこのくらいのテスト、全て満点をとるのは造作もない。それをわざわざ間違えたんだ。
満点で勝ったら、面白くないだろう?
…意地が悪い、と自分でも思う。
「負けちゃったけど、柳も間違えたりするんだね」
さっきまであんな形相をしていたにも関わらず、女の子らしい笑みを浮かべた真理に、心臓がうるさく音を立てる。
「俺を何だと思ってるんだ。人間なら誰しも失敗するさ」
「…よし、なら今度こそ負けない!」
柳でも取れなかった満点取ってやる!
そうやって俺に宣戦布告した彼女は、もう用は済んだとでもいうように去っていった。
…全く、こいつはどれだけ俺を夢中にさせれば気が済むのか…。
この胸の高鳴りを、誰かどうにかしてくれ。
定期テスト
(早く)(早く)
(次のテストがくればいい)
20100808
 ̄ ̄ ̄ ̄
スランプから抜け出せない…。
さて、どうしたものか。