「仁王」

「………」

「仁王ってば」

「………」


無視か。
放課後になったから机に突っ伏してる仁王に声をかけてあげているのに、ちっとも返事をしない。寝てるならともかく、目は開いてるから起きてるはずなのに。


「何か怒ってんの?」

「………別に」


絶対嘘だろ、と心の中で突っ込んだ。
この詐欺師をムスッとしたオーラが包み、こいつは私と目を開わせようとしない。これを怒っていないと言えるのか。


「何よ、私何か怒らすようなことした?」

「……」


相変わらず無言。
そろそろ面倒になってきてため息をついた。
私は部活に行こうと、荷物を持って仁王から離れる。


「…昼休み、」


後ろから小さく、呟くような声が聞こえた。やっと話してくれる気になったのかと思い、仁王のところに戻る。

話してくれないと、謝れないからね。
けれど私は昼休みに心当たりがない。仁王と話した覚えはないし、いつも通りに友達と喋ってた…と思う。


「昼休みになんかあったっけ?」

「…覚えとらんのか?」


忘れた、というより身に覚えが全くありませんが。
そう言うとこいつは更に拗ねてしまいそうなので、なんとか言葉を飲み込んだ。
しかし本当にわからない。

しばらく私が考えていると、しびれを切らしたのか仁王がゆっくりと口を開いた。


「…真理、ペットボトルの紅茶飲んどったじゃろ」

「あぁ、あれね。そりゃあ紅茶好きだし……って、まさかそれが気にくわなかったの?」


そう言えば、違う!と思いっきり否定された。じゃあ何だと言うんだ。


「男にやった」


一瞬考える。
そう言われてみれば確かに、昼休みに飲んでいたペットボトルの紅茶を、隣の席の男子にあげた。…それが何かいけなかったのか?


「……間接キス、ナリ」

「…は?」


俯いてそう告げた仁王は相変わらず機嫌が悪そうで。間接キスなんて気にするのか仁王。
可愛いなー、なんて言ったら怒られたが。


「私、別に気にしないし」

「真理が気にせんでも俺が嫌じゃ。真理が他の男と、間接であろうとなかろうとキスするなんて絶対許さんぜよ」


言ってることはすごくカッコ良さげなのに、何で目が潤んでるんだろう。なんだか捨てられた子犬みたい。
これが詐欺師の本来の姿だなんてファンが知ったら卒倒ものだよ。


「…ホントどうしようもないんだから」


それでも私は、そんな彼が愛おしくてたまらない。



どんな君だって愛してる
「俺だって…間接キス…、」
「間接キスでいいの?」
「なんじゃと」




20100714
 ̄ ̄ ̄ ̄
詐欺師じゃない仁王が書きたかっただけ
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