朝。
いつものように学校に行き、いつものように席についた。そしてこれまたいつものように、隣の席の神咲を見る。
いつも通り読書をしている彼女がそこにはいるはずだったのだが、一つだけいつもと違う所があった。
読書をしている彼女の左手首に、包帯が巻かれていた。何事もなく過ごしているところをみると、骨折というわけではなさそうだ。
俺と神咲は仲がいいわけではないし、話したこともない。いや、それでは少し語弊がある。一度だけ、生徒会室に神咲が訪ねてきたことがあった。俺に用があったわけではなかったが、応対したのが俺だったのだ。
つまり、俺と神咲はただのクラスメートだ。…神咲はそう思っているだろう。少なくとも俺は思っていないが。
そんな関係の俺が、突然話しかけることが出来るわけがない。本当に好きになったら恥ずかしくて話しかけられない、と言っていた仁王を笑った自分を殴ってやりたいと思う。
それにもしもあの包帯の中に、神咲が触れられたくないものが詰まっていたとすれば、それこそ墓穴を掘るようなものだ。
だが、逆にこれはチャンスなのか?
今話しかければ、神咲に俺という存在に気づいてもらえるだろう。そして、神咲の悩みを少しでも俺に話してくれるのだろうか。
確率は五分と五分。
賭けに出るか否か。
「神咲、その手首の包た」
「オイ、真理!それどうしたんだよぃ」
神咲がこちらを向こうとしたちょうどその時、丸井が俺の言葉を遮り教室に入ってきた。何故お前がここにいる。
お前のクラスからここまではかなり離れているはずだが…。
それに今、神咲を呼び捨てにしなかったか?それも、名前を。
「あ、ブンちゃん。これはね、ちょっと昨日転けちゃってさ、痛めたんだ」
あはは、と明るく笑う神咲にどこかホッとする。俺の取り越し苦労だったようだ。
だが、丸井のおかげで神咲と話す話題が消えた。同じ質問をしても印象には残らないだろう。しかも丸井と仲がいいのであれば、尚更だ。
「お前、相変わらずどんくせーな」
「うるさい!ブンちゃんこそ、そうやってお菓子ばっかり食べてたらブタになっちゃうよ」
「うるせぇよ」
仲がいい、なんてレベルではなさそうだ。もしかして幼なじみか何かか?
いや、俺のデータに狂いはない。…だがこれは…
エンドレス
「そういえば、さっき何か言おうとしてなかった?柳くん」
「い、いや、何でもない」
「そう?…あ、その作家さん私も好きなんだ。今度感想聞かせてよ」
「感想?…あ、あぁ、構わない」
(話題など案外身近にあるものだな)
20100712
 ̄ ̄ ̄ ̄
ヘタレでお馬鹿な参謀が書きたかった。
というか、ヘタレでお馬鹿っていうよりただの変態のようだ。
クールな参謀も好き。