夏が終わった。

全国大会は、青学の優勝という形で今さっき幕を閉じた。
みんなすごい試合をしていたけど、最後の試合だけが頭から離れない。思い出しては涙が溢れて、さっきからもうずっと泣きっぱなしだ。


「そんなに泣くものじゃないよ」

「せ、いち…」


外のベンチに座って泣いていた私に、優しく声をかけてくれたのは精市だった。
初めて負けて、しかもそれが一年の子だとというのに、彼は笑っている。目が赤くないから泣き止んだんじゃなく、泣いてないんだ。
どうして、笑えるの?


「俺たちが負けて、悔しい?」

「っ、悔しいに…決まってる…!」

「そう、」


また優しく微笑む精市に、涙が溢れる。
精市には勝ってほしかった。勝たせてあげたかった。
そんな想いが止まらない。
行き場のない想いが溢れていくように、涙は止まらない。


「俺は、彼に教えられたんだ」


何も言えない私の心中を悟ってくれたのか、精市が隣に座ってぽつりぽつりと話し始めた。
私は必死に耳を傾ける。


「俺は…テニスが好きだ。でもいつの間にか、勝つためのテニスしかしてなかった。……テニスを楽しむ心を、忘れてしまっていた」
ふ、と空を見上げた精市は涙のせいでぼやけてしまっていたけど、とても綺麗で、とても儚く見えた。


「教えられたんだ、彼に。テニスを楽しむ心が一番強いんだってことを」


それに、負けを経験すれば、もっと強くなれるから。

そう笑って言った彼が泣きそうになっているような気がしたのは、私の気のせいなのかな。
しちゃいけないことかもしれない、と思いつつも、そっと彼の体に腕を回した。
ピク、と微かに動いた彼を、強く抱きしめる。


「真理…?」


私を呼ぶ声が頭の上から聞こえたけれど、何も言えなかった。なんて声をかければいいのかわからない。どれを言っても精市を傷つけてしまいそうで…。


「…でも、全国、勝ちたかったな」


ふふ、と笑いながら私に体を預けてくれた精市に、やっぱり彼には適わないと思った。
だから、静かに泣いている彼を、私は見なかったことにしようと心に決めた。




それはひどく儚く、純粋な

「…ねぇ、真理」
「何?精市」
「俺、真理のこと好きだよ」
「…っ!?」
「顔真っ赤」






20100620
 ̄ ̄ ̄ ̄
DVDで決勝戦を見ていたら、突発的に。
私の中では、立海は永遠に王者です。

最後、「今度は楽しむテニスで」って言った精市に号泣したのは私だけではない、はず!
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