【好きとも云えない僕達は。】
今日は待ちに待った縁日だ。
僕は紫地に牡丹と彼岸花が描かれた浴衣を着て彼女を待っている。
程無くして現れた彼女は桃色の浴衣。
柄は僕と同じで牡丹と彼岸花だ。
社会人になった僕達が一番最初に購入した、ちょっとお高いもの。
それがこのお揃いの浴衣。
"毎年参加してる縁日で一緒に着よう"って。
今日は町が一番賑やかな日。
祭囃子が僕は好き。綿菓子も好き。
はしゃぐ僕を見失わない様にと、
ぱっと手を繋いでくる彼女。
毎年この瞬間が最高にどきっとする。
僕はいつも照れてしまって
するっと手から逃れては小指だけを繋ぐ。
僕はそのままはしゃいでしまう。
たかが祭り、されど祭り。
君と堂々と手を繋げる日。
それでもふと振り替えるんだ。
ちゃんとついて来れてるかな?
君は疲れてないかな?って、不安で。
小柄な彼女はぴったり僕の傍。
そして彼女なりの合図がある。
繋いだ小指にきゅっと力を込めてくるんだ。
振り替えれば受けられる場所でいつも繋がってるのに。
きゅっ、て。
それを何となく繰り返すんだ。
彼女の顔に疲れが現れたら、
僕は小指を離す。
お祭りが、終わろうとしてる。
君は察して"ここに居るね"と路の片隅に移動する。
僕はちらちら彼女が気になりながらも、
屋台の兄さんに「りんご飴2つ下さい」と声を掛け
小銭を渡す。
僕は彼女の元に戻り、
片方のりんご飴を渡しそのまま横にしゃがみこむ。
彼女もしゃがみこみ、
二人そのまま話し込む。
学生の頃から変わらない。
路の片隅でしゃがみこんで離す僕達。
ばばばっと祭りの終わりを告げるしょぼい花火が上がった。
(来年も来れるかな…?)
僕は思うけど、口にしない。
だって"お祭りだ"って言い出すのはいつも君だから。
お揃いの浴衣だって、言い出したのは君だもんね。ふふっ
好きだよ、なんてどっちも云えないけれど。
また1年間よろしくね。
2016/10/31
back