【私に捧げるは狂気のワルツ】
今宵は船でも沈没するのかい?
演奏を辞めない楽器隊がいた。
女は赤い靴でも履いているのかい?
踊りを止めない女がいた。
ここは海の上でも森の中でもない。
女の舞台だ。
女は独り踊りながらパートナーを探す。
女の踊りはまともなものではない。
歪なステップ。とても見れたものではない。
女は色んな男と重なっては「なんだか違う」と手を離してしまう。
幾度もパートナーを変えては失望を繰り返す。
そんなある日女はひとりの男と出逢った。
「伴に踊りましょう」
男と女は手を取り合いステップを重ねる。
不思議なことが起きた。
ふたりの息はぴったりだ。
女にとって初めての経験だった。
それは男にとっても同じである。
「踊りましょう。踊りましょう」
ふたりのワルツともいえないワルツはいつまでも続く。
狂気じみている。
今宵は船でも沈没するのかい?
いっそふたりで入水心中でもしたらどうだ。
女は赤い靴でも履いているのかい?
「私の息が耐えない限り舞台の幕は降りないわ」
此処には恋も愛もない。
ただふたりの狂気な儀式だ。
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