時計の秒針が進む音と、シャーペンを走らせる音だけが部屋に響く。
そうしてしばらくの間無言で宿題に取り組んでいた綱吉だが、ふとシャーペンを置くと溜息をついた。
別に問題が分からなかったというわけではない。
原因は後ろのベッドにあった。
「……骸、いつまでそうしてるんだ?」
視線をベッドの上に投げかけると、先程から綱吉を観察していた彼――骸は、優雅に足を組みかえて答えた。
「君が僕に構ってくれるまで」
その台詞に、綱吉はびくりと青筋を立てる。
「あのなあ骸。見れば分かると思うんだけど、オレ今忙しいの。今週の週末課題が異様に多いの。だからお前に構ってる暇はない。分かるよな?」
「君の事情なんか知ったこっちゃないです。僕は暇なんだ。相手をしなさい。」
「……お前、いいかげんに……」
かなり本気でハイパー化してでも追い出そうかと考えたとき、唐突に窓がガラリとあいた。
「沢田、赤ん坊は……」
「おや、雲雀恭弥。」
「!」
「ひ、ひば……!?」
ガキン!
綱吉が呼びかける前に金属音が響いた。
視線が合った途端、犬猿の仲の二人が戦闘を始めたのだ。
あっという間に室内がめちゃくちゃになる。
うわあああ、よりによってこんなときに!!
綱吉の嘆きはもはや届かなかった。
「クフフッやっぱり君の家は最高だ。暇潰しにはもってこいですね!」
「暇潰し? 何の話か知らないけど、とにかく君は僕が咬みこ……」
と、そのとき。
突然爆発音と煙が部屋中を満たした。
「!!?」
綱吉は思わずその煙を吸い込んでしまい、咳き込みながらもそれが晴れるのを待つ。
するとそこにいたのは。
「おやおや……都合がいい。綱吉君の部屋でしたか。」
「…骸!?」
何故か、10年後の六道骸だった。
以前見たことがある黒のジャケットをはためかせ、綱吉に向かってにっこりと微笑む。
「こんにちは、幼い沢田綱吉君。」
「えっ!? 10年バズーカには当たってないよな!?」
ランボは今この場にいないのだから、こんなことはあり得ないのに。
綱吉の疑問を見透かしてか、骸は楽しそうに笑った。
「クフ。こちらでバズーカを使ったんです。僕が改良した『逆10年バズーカ』をね。ちなみに時間もいじったので、1時間はこのままですよ」
「はあ!? 何でわざわざそんなこと……」
「君に、会いたかったからです。」
その言葉と共にヤケに自然な動作で骸は綱吉を抱き寄せた。
……!? 何この状況!!?
混乱する綱吉にはお構いなしに、憂いを帯びさせて息を吐く。
「こっちの時代の綱吉君が最近仕事で忙しくて……なので君に遊んでもらおうかと思って来ました。」
「お前変わってないな!!」
何だそれ。この時代の骸がオレん家に来た理由と変わらないじゃん!
綱吉が呆れていると、低い声が響いた。
「いつまでそうやって風紀を乱しているんだい? 僕の前でいい度胸だね。」
「ひっひひひ雲雀さん……!」
しまった。いきなり骸が10年後と入れ替わったことに気を取られて、この人のことすっかり忘れてた……!!
焦る綱吉と対照的に骸は余裕の表情を浮かべた。
「おや? 雲雀恭弥…これは……10年前の君、こんなに可愛かったんですね」
「は?」
「なっ何言ってんの骸おおおお!!?」
あまりにもあり得ない台詞が聞こえ、雲雀はトンファーを構えたまま固まり、綱吉は耳を疑いながらもツッコミを入れる。
だがそのどちらにも全く意に介さず、骸は綱吉から離れるとニヤリとした笑みを浮かべた。
「こうなったらせっかくですし、二人まとめて面倒みましょうか?」
クフ、と笑い声を洩らすと、指をパチンと鳴らし。
「わああぁっ!???」
「ちょっ……!?」
その瞬間どこからか伸びてきた蔦が二人に絡みつき、身体が宙に浮く。
いきなりのことで動揺した雲雀がトンファーを床に落とし、それが転がる音がした。
「むっ骸っ!? 何コレ!!」
「……どういうつもりなの、六道……」
二人の視線を受け、骸はぺろりと舌舐めずりをする。
「勿論、ナニするつもりですけど。」
「「……は?」」
意味が分からないといった表情をする綱吉と雲雀。
その様子に一層笑みを深める。
「それで構いませんよ。今教えてあげますから」
するりとジャケットを脱いで床に落とし、一歩近づいた。
「いただきます。」
***
「ごちそうさまでしたv」
骸は、ベッドの上でぐったりしている二人の少年に向かって満足げな微笑をする。
疲れ果てた綱吉と雲雀はそれに答えるだけの体力がまだ回復しておらず、ぼんやりと宙を見ていた。
「ちょっと手加減できませんでしたね……おや? もう少しで時間ですか。」
時計を見て時間を確認し、また視線をベッドへ向けた。
「この光景はさすがに10年前の僕には見せられませんし、証拠隠滅させていただきましょう」
「ふぇ……?」
「…ん…むく……?」
再度指を鳴らすと乱れていた二人の衣服も、ついでに散らかっていた室内も元通りになる。
「……クフ。楽しかったですよ、綱吉、恭弥。では、Arrivederci!」
骸がそう言うと同時に、またしても爆発音と煙が部屋を包み。
「…っ! …やれやれ……ようやく戻ってこれましたか…」
現代の骸が姿を現した。
きょろきょろとあたりを見回すが、10年後の骸による『証拠隠滅』には全く気付かない。
どうやら10年後と入れ替わったみたいでしたが……何も異常はありませんね。
「「骸……」」
「はい? どうかしましたか?」
そのとき後ろから声を掛けられて振り向くと、目を腫らした二人と視線があった。
「えっ!? 二人共、何が……」
骸が台詞を言い終える前に綱吉が瞳を潤ませる。
「骸のバカ変態ショタコン!!!」
「はあ!??」
そのまま部屋を走って出て行った綱吉を、骸は呆然と見送った。
な、何があったんですか?! 10年後の僕は、綱吉君にあそこまでの罵詈雑言を浴びせられるようなことをしたんですか!!?
取りあえず状況を確認しないと……
そう思って雲雀に声をかける。
「雲雀君、僕がいない間何が……」
「骸……僕の純潔を散らした責任はちゃんと取ってもらうからね…」
「ひ、雲雀君……?」
こちらも様子がおかしい。
そう思っていると、唐突に雲雀が骸をビシッ! と音がしそうな勢いで指差した。
「さあ、僕を娶りなよ!!」
「ちょっ…?! 何言って……どうしたんですか雲雀君!!?」
「『恭弥』って呼ばないと咬み殺す!!」
「ギャ――ッ!!!」
***
(結局二人の記憶を消して事なきを得ましたが……本当に10年後の僕は何をしたんでしょう……?)
その答えを知るのは10年後。
End
ええ、反省はしてませんよ!←開き直り
前に骸のハーレム話を考えていたとき友人に頂いたネタなんですが、10年後骸さんがめちゃくちゃいい思いをするお話でした。
ギャグになりきれてない気も結構しますが自分的には書いていて楽しかったです!
up:2011/09/24