short | ナノ

お題配布元「確かに恋だった」


1.お願いだから消えてくれ


 放課後。
 今日は山本も獄寺君も用事があって一緒に帰れないそうなので、さっさと一人で帰宅しようと昇降口を出たとき、校門の方から黄色い歓声が聞こえた。
 ……嫌な予感。
 超直感は危険だと告げていたが、一応確認のため人が集まっている場所に近づく。
 そこにいたのは。

 げ、やっぱり。

 人目も気にせず黒曜の学ラン姿で、校門に背を預けて佇む六道骸だった。

 コイツ顔はいいからな……だから女の子達が騒いでるんだろう。
 まあ本性を知ったらドン引きすること間違いないけど。
 いや、とにかくそんな分析している場合じゃない! 気付かれないうちに逃げないと…

 そっと人込みをかき分けて帰ろうとする。
 だけど。

「あ、綱吉君!」

 その途端見つかった。何なんだよオイ。そのフサにはセンサーでも付いてんのか、全く。
 ……バレたものはもうしょうがない。オレは潔く骸がこっちに来るのを待った。

「お待ちしていましたよ、綱吉君」
「……オレは会いたくなかったよ」

 抱きつこうとする骸を避けながら溜息をつく。
 最近骸は会う度にこういうことをしてくる。この前なんか、出会い頭にいきなり……その、……ファーストを奪われた。うぅ……
 つまり、骸はそういう相手としてオレを見ているらしい。
 ……ほんと、お願いだから消えてくれっていう感じだ。

「何しに来たんだよ。雲雀さんに見つかっても知らないからな」

 むしろ見つかって咬み殺されればいいのに。

「君の護衛ですよ。今日は帰りが一人になるんでしょう? 今朝アルコバレーノに頼まれました」
「……そういうことならいいけど」
「クフ、じゃあ行きましょうかボス」

 お手をどうぞ、と手を差し出す骸。
 ヤケに様になってるけど。

「…魂胆見え見えだよ、バカ」

オレは手を振り払って歩き出した。
男同士で手繋いで楽しいのなんてお前だけだっつーの!


2.お前の性癖に興味はない


「よくお前がこんな護衛なんて引き受けたな」

 さすがに無言のまま帰るのも気まずくて、それとなく話を持ちかけてみる。
 すると骸は少しむくれた表情をした。

「心外ですね。僕が君の護衛すらもしない、守護者なんて名ばかりの男だと?」
「いやそういう意味じゃないけど」

 うわ、コイツってめんどい。拗ね方がガキだよな。

「気付いてないようですけど僕だって結構君を守ってるんですよ? 毎日の登下校は勿論、入浴中や就寝時も見張ったりとか」
「それは守っているとは言わないだろ! ただのストーカーだ!!」

つーか入浴中!? 覗きですか!??
 もうやだコイツ。

 身の危険を感じ、隣の骸から一歩距離をとる。
 すると骸にまた距離を詰められたのでもう一歩横に移動。
 それを繰り返しているうちにいつのまにかオレは塀に背が付くぐらい追い詰められていた。

「ちょっ! 何で人がせっかく距離を空けようとしてんのにまた詰めてくるわけ!? 離れろよっ!!」

 もう逃げ場もなくて仕方なく離れるように頼むが、骸はただ笑みを返しただけだった。

「それは無理ですね。僕基本的にSなので、相手が逃げようとすればするほど屈服させたくなるんですよ」
「お前の性癖に興味はない!!」

 マジで悪寒を感じたのでハイパー化して骸をぶっ飛ばした。
 ……護衛のはずなのに、コイツの方が危ないってどうなんだ。
 色々な意味で。


3.100%ないから安心しろ


 骸はぶっ飛ばしたのに割とすぐに復活した。……残念。
 あーもー早く家着かないかな……
 と、そのとき。

「綱吉君!」
「え? …うわっ!?」

 突然腕を引き寄せられてバランスを崩しかけ、何すんだと文句を言おうとする。……が。
バンッ!!
 銃声が聞こえ、骸が三叉槍で弾丸をはじき返すのが見えた。

 !!!?
 刺客!? 何でまたこんな時に!!

「ボンゴレ十代目、覚悟!」

 しかも囲まれている。10人はいるだろう。
 だが骸は焦らず、場違いな笑みを浮かべた。

「大丈夫ですよ、綱吉君。この程度の敵に僕達の下校デートを邪魔などさせません」

 下校デートって……この非常時に何言ってんだよコイツ!!
 オレが突っ込む前に骸の右目がヴィンと不愉快な音を発して、道路からマグマの柱が噴き出した。

「ひっ!?」

刺客達がひきつった声を上げるが、それはほんのデモンストレーション。

「クフフ……さあ、地獄を見せてあげましょう」

 そう言って、骸は本当にそいつらに地獄のような光景を見せたらしい。
 一分後には全ての敵が気絶していた。……どんな幻覚を見せたのか。絶対聞きたくない。たぶん一週間は夜眠れなくなる。
 その後刺客達を手際よく縛り上げどこかに連絡していた骸は、パタンと携帯を閉じるとオレの方を向いた。

「アルコバレーノに連絡しましたから、もうすぐ関係者が始末しに来ると思います。すみませんね、時間をとらせてしまって」
「いや別にいいよ。……あ、あのさ……骸」

 さっき助けてくれてありがとう。
 そう言おうとして口を開いたが。

「何ですか綱吉君。あ、もしかして僕のカッコよさに惚れちゃいましたか!!?」
「100%ないから安心しろ」

 ……これさえなければな。ホント、惜しいよコイツ。


4.本気で通報されたいのか?


 それからはまた襲われるとかそういうこともなく、平和に帰り道を歩くことができた。……一日に何度も刺客が送られてきたりしたらオレの身がもたない。
 そしてようやく家に着き、オレはほっとして息を吐く。

 何事もなく帰れてよかった。いや、久々に刺客来てビビったけど。
 骸こういうときは頼りになるもんな。
 ああ、そういえば何だかんだでちゃんとお礼言ってなかった。
 確かに……アレなところはあるけど、助けてもらったのは事実だからオレは骸に向き合った。

「む、骸……その、さっきはありがとう。助かった」

 よし、言った。余計なこと言われる前に(ここ重要)。
 だってさっきみたいに変なこと言われると謝りたくなくなるしね。

「いえ、そんなたいしたことはしていないですし。気にしないでください」

 そう控え目な微笑を浮かべる骸は不覚にもちょっとカッコよくて一瞬ドキッとしてしまった。
 今なら女の子達がコイツ見てキャーキャー言う気持ちが分からないでもない。
 やっぱ美形だもん。実を言うと顔だけならマジでオレのタイプなんだよなコイツ。

 そんな感じで少しだけ見惚れていると骸がさらに一言。

「でもどうしてもお礼がしたいというなら、君の私物を頂きたいです」

 …………。
 こんなヤツに見惚れていた一秒前の自分を殴りたい。
 私物って……この変態。
 絶対やるつもりはないが一応訊いてみる。

「……私物って何だよ」
「そうですね。例えば今君が身につけている下着辺りを是非」
「本気で通報されたいのか?」
「……冗談です」

 いや、本気だったろ。答えるまで間があったぞ。
 顔はいいのにな……中身…本当にどうにかならないんだろうか。


5.変態は嫌いなんだよ!


 翌朝。五分ほど前に目覚まし時計を止め二度寝をしていたオレは、誰かに身体を揺さぶられる感触に顔をしかめた。

「綱吉君、起きてください。遅刻しますよ」
「……あと5分……」
「どうしても起きないならキスします」

 その言葉を聞いてオレは跳ね起きた。
 ま、まさか。こんなことを言うのは……

「おはようございます、綱吉君」
「むっ骸っ!?」

 案の定ベッドの横にいたのは骸だった。

「な、何で朝っぱらから人の部屋にいるんだよ!!?」
「お迎えに来たんです」
「はあ?!」
「何でも、アルコバレーノが昨日の連中の仲間がまだ君を狙っているらしいので、しばらく登下校の際は護衛しろと言ってきまして」

 何ソレっ!!?
 初耳だよオレ!?
 とりあえずそんなの断らないと……

「いやいやいいよ。お前も忙しいだろ?」
「いえ、最近は暇で時間を持て余していたので快く引き受けました。」

 がくりと肩を落とす。すでに決定事項ですか。当人に確認くらいしてほしかった。
 でも、もう今更。
 オレは割と諦めはいい方だ。うん、仕方ないよな。

 だけど、一つだけ確認しておきたい。

「……お前、護衛はいいけどオレに変なことすんなよ……」
「変なこと? 何ですかソレ」
「だっだから! 抱きついてきたりとか、き……キスしたりとか……」
「ただの愛情表現ですよ」
「普通はそんなの付き合ってもいない男同士でやんないだろ! もうただの変態行為だよ!! オレ、変態は嫌いなんだからな!」

 ほかにも変なこと言ったりするし、勘弁してくれよ!
 心からの叫びだが、何故か骸は妙に嬉しそうだ。

 え、何コイツ。変態って呼ばれて嬉しいとか?
 昨日自分はSとか言ってたけど、実はドMとかいうオチ?!
 うわ、それ最悪じゃん。

 オレが想像して軽く引いているのに構わず、微笑みを浮かべたまま骸が顔を覗きこんでくる。

「『変態は嫌い』と言っても、『骸が嫌い』とは言わないんですね。」
「……それがどうかした?」
「つまり、僕自身は嫌われていないってことでしょう?」

 今のところはそれで十分です。

 そう言って骸はオレの右の頬にキスをした。

 ??!

「おっお前っ! やめろって言っただろ!!」
「唇じゃないんですからいいでしょう。頬にキスなんて普通に挨拶みたいなものですし。つべこべ言わないでください。」

 そーゆー問題じゃないだろっ!!?

「それにこれは宣戦布告の合図です。」

 唇に人差し指を押し当て、骸がにやりと笑った。

「まだ望みはあるみたいですから、何をしてでも君を落として見せます。覚悟してくださいよ?」

 最後にその指をオレの唇に触れさせると、骸は身を離す。

「では僕は下で待っていますから早く来てくださいね」

 バタン、とドアが閉まる。

 どうしよう。
 オレはベッドの上から動けなかった。
 了承も得ずにキスしたり、いきなり抱きついてきたり、ストーカー紛いのことをしてたりする常識もへったくれもないヤツなのに。
 言われてみると、アイツ自身が嫌いとは言えないのは確かで。

「やば、オレもうダメかも……」

 真っ赤になっているだろう顔を押さえて俯く。
 好みなのは顔だけのはずだったけど。
 いずれ嫌いだと思ってた変態気味な性格も含めて「好き」と言ってしまいそうな気がする。
 これからの登下校と未来に大きな不安を抱え、オレはこっそりと溜息をついた。


End




あ、あんまり骸さんが変態にならなかった……ツナも全力で拒絶できていない気が……最後デレてるし、何故か面食いになったし……うーん……
ちなみにこの後悶々と悩み続けたツナは学校に遅刻します。

up:2011/09/24

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